防災教育では教員に対する「防災研修が必要」と考える教育委員会が96・7%に上った一方、「全く実施していない」教委が34・5%で全体の3分の1。教委の6割が「防災教育に詳しい教員は少ない」と回答した実態が背景にあるようだ。これは(一財)防災教育推進協会が全国の教委を対象に実施した「教育委員会の防災教育に関する調査」の結果(2018年発表)。調査を行った協会に防災教育への提言を寄せてもらった。
寺田寅彦は「天災(災害)は忘れたころにやってくる」という警句を残しているが、近年の災害は「天災は忘れる前にやってくる」という状態となっている。まさに「災害の日常化」とも言えるだろう。
東日本大震災以降、防災教育の必要性が叫ばれて久しい。しかし、学校現場での防災教育はあまり進んでいないのが現状だ。その原因は防災に詳しい教員の不足が挙げられる。
自治体によっては防災士を取得した教員を学校に配置しているところもあるが、防災士を取得したからといって、防災の専門家ではないため、教員が子供たちに自信を持って教えることはできない。防災士取得のときの研修内容が学校現場での防災教育と結びつかない場合もあるからだ。
そこで当協会では、教員が子供たちに防災を正しく教えるための研修会を定期的に行っている。教員が防災についての知識を身に付けることで、学校現場での防災教育のハードルが下がり、自信を持って子供たちに教えることができるようになることを目指している。
加えて、小中学生を対象に、防災意識の定着を図り、自らの生命は自分で守る人間力を身に付ける防災教育プログラム(ジュニア防災検定)を自治体に提案している。すでに導入している自治体では、教育委員会や消防、危機管理課などが予算措置をおこない、小中学校でジュニア防災検定を毎年実施している。
ジュニア防災検定(初級・中級・上級)は検定という形式を採用しているが、筆記試験の他に、家庭内で自分の家の防災対策について話し合う家族防災会議レポートを課している。もう1つは防災自由研究だ。1人で取り組まなくても家族の協力や友達同士、クラス全員で1つの作品を完成させて提出することもできる。筆記試験は、単なる暗記や記憶力を問うものではなく、問題を解きながら防災を学ぶ形式となっている。
評価(合否)は家族防災会議レポート、防災自由研究、筆記試験の3つを総合的に判断して行う。仮に不合格になっても再チャレンジの機会を設けている。ジュニア防災検定は調べ学習の要素もふんだんに盛り込んでおり、実施している学校では、防災自由研究を夏休みなどの長期休暇中の自由研究に利用しているところもある。
また、今年度から小学校低学年(1年から3年)を対象に、家族防災会議レポートと防災自由研究だけで評価するジュニア防災検定(基礎コース)も始まった。さらに、ジュニア防災検定の上級に合格した中学生のなかには、防災検定の準2級(高校レベル)や2級(高校卒業レベル)に翌年挑戦する者もいる。
ジュニア防災検定は今年で10年目を迎える。この間に当協会が蓄積した膨大なデータは学校防災にも役に立つものであり、今後は学校現場に還元していく予定だ。マンネリ化した防災訓練(避難訓練)だけでは、子供たちは防災に興味を持たない。防災を一般の教科と同じように、子供たちが自らの意思で取りくむようになれば、地域防災力の向上にも間違いなく繋がると当協会は考えている。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年8月15日号掲載