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第87回【教職員のメンタルヘルス】初任者の指導に様々な工夫を

2022年8月15日
連載

1学期にメンタル面で気になる教員がいても、夏休みの間にゆっくりできるからと放置するケースがありますが、このパターンで9月から10月にかけて病休や休職に入る教員が多いのです。毎年、2学期になると必ず学級崩壊を起こす学級担任がいます。1学期は担任の出方を伺っていた子供たちが、夏休みにパワーアップして戻ってくるのです。そんな子供に1学期と同じような対応をしていては「総スカン」を食らっても仕方がありません。学級経営や授業が苦手な教員にとって2学期は一番つらい時期でもあるのです。

最近では、教頭試験の倍率や小学校教諭の採用倍率が2倍を切る自治体がみられます。また2次試験の結果、合格しても辞退する人が増えているようです。教員不足解消の対策として、教員の免許更新制を廃止して、退職後何年か経った教職経験者に現場復帰をお願いしたりしています。さらに社会人枠を設け、教職免許を持っていない人にも臨時免許を与えて教壇に立たせる自治体もあります。「私は皆さんに誇りを持っています」とは言えないと何人かの校長がため息混じりに語っていました。

教員不足で教務主任が担任を掛け持ちしたり、教頭が授業を持ったり、校長自らがプール指導を行っている学校も散見されます。特に担任を掛け持ちしている教務主任は、子供が下校してから教務の仕事に取り掛かるので、相当な過重ストレスがかかっています。そんな教務主任たちがダウンしたらそれこそ一大事。教務の仕事は学校全体の多岐にわたるため、代わりは「誰でもOK」というわけにはいかないのです。校長は自校の教務主任を注意深く観察し、必要なら早めに手を打ってください。

教員の人材確保は今や深刻です。若手校長たちに「人によってはあと15年も校長職をやる人がでてきますね」と話を振ったら、異口同音に「勘弁してくださいよ」と、困惑の表情を浮かべていたのは印象的でした。60歳を過ぎても働いている元管理職が何人もいらっしゃいますが、さすがに学級担任は頼めません。教頭の倍率が下がり、若手校長が増加している現状を考えると、何校かに1人の管理職経験者を配置し、若手校長教頭のサポート役をお願いしたいと思います。

大学まで比較的順調な人生を送ってきた人が、教員になって初めてトラブルに見舞われると、大きな挫折を乗り越えた経験がないからパニックに陥ることがあります。乗り越えようとするより退職を選択する人もいるようです。今年度、教職に就いた教員はコロナ禍で大学2年間、対面授業やサークル活動もなし、研究授業もほとんど経験しなかった学生たちです。ティーチング以外は経験不足が否めません。特に他人から「厳しく叱責されて著しく落ち込んだ」経験がないのが共通点でもあり、弱点でもあるのです。

ある学校では、校内研修等で劇団の女優さんを招き、様々なタイプの保護者役を演じてもらい、先生方が応対するロールプレイを実施しています。プロがいろんなタイプの保護者を演じてくれますので、臨場感たっぷりでなかなかの迫力でした。保護者に対する電話対応や初期対応については、これまで以上に丁寧で細やかな指導が必要だと思われます。

また他には、初任者指導教諭のほかに、「メンター制度」を実施している自治体があるのです(詳しくは、埼玉県川口市教育委員会学務課まで)。初任者に対して、教職2~3年目までの先輩教員が1年間手取り足取り面倒を見る制度です。年齢が近い先輩たちから、「自分も初任者の時、何もわからなかった」とか、「こんな一言で助かった」という話を聞くだけでも初任者は安心するようです。メンター役になった先輩たちも自分がリーダーになった時の予行練習ができ、互いに有益な関係が成立しているので今もこの制度が継続されています。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年8月15日号掲載

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