児童生徒や教職員の学習と生活の場である学校施設には、障害のある児童生徒が共に学び活動する場としての配慮、さらに災害時の避難所や地域コミュニティの拠点という機能を踏まえたバリアフリー化が求められる。文部科学省は2025年度までに避難所指定校の全校舎に車椅子使用者用トイレの設置を目指すなど、既存施設の工事費補助率を1/2に引き上げる。さらに早期のバリアフリー化のため先ごろ事例集をまとめた。
2021年4月、バリアフリー法の一部改正の施行に伴い特別特定建築物に公立小中学校が対象となったことから、文科省は学校施設のバリアフリー化推進を急ぎ、21年度から既存施設の工事費国庫補助率を従来の1/3から1/2に引き上げ。2025年度末までに全ての学校にスロープを設置、避難所指定の全ての学校に車椅子使用者用トイレを整備するなどの目標を掲げ、バリアフリー化を推進している。
文科省は6月、冊子「学校施設のバリアフリー化の加速に向けた取組事例集」(事例集)をまとめた。学校施設のバリアフリー化に関する計画・設計上の留意点について、イラストによる具体的な図解によってわかりやすい部位別解説が掲載されている。個別事例や、バリアフリー化に係る国庫補助や関係法令等の参考データも収録されている。
事例集ではバリアフリー設備を次の9分類で紹介。「安全で移動しやすい敷地内通路」、「利用しやすい駐車場」、「利用しやすい教室等」、「移動しやすい屋内の通路」、「円滑に利用できる階段」、「利用しやすいエレベーター」、「誰もが利用できるトイレ」、「出入りしやすい教室等の出入口」、「建物に出入りしやすい昇降口、玄関」
【例】「誰もが利用できるトイレ」=車椅子使用者用便房を設置するトイレは、トイレ及び便房の出入口や通路を、車椅子使用者の通行が可能な横幅を確保することが重要。障害のある児童生徒等が休憩時間内の教室移動の際などに利用することを考慮し、屋内運動場や、各階に車椅子使用者用便房を設置することが望ましい。新築・改築時や長寿命化改修等の大規模な改修時を活用して、各階に車椅子使用者用便房を設置することが重要。車椅子使用者用便房、オストメイト対応の水洗器具、オムツ交換台等の設置などを組み合わせて多機能便房とする場合については、多機能便房以外の便所と一体的又はその出入口の近くなど、適切な位置に設置するとともに、車椅子使用者の利用に支障が生じないよう、可能な限りオムツ交換台等の設備の分散化を図って整備することが望ましい。
「事例集」が収めた学校施設と増改築・改修設備は次の通り。(掲載した設備A=安全で移動しやすい敷地内通路、B=利用しやすい駐車場、C=利用しやすい教室等、D=移動しやすい屋内の通路、E=円滑に利用できる階段、F=利用しやすいエレベーター、G=誰もが利用できるトイレ、H=出入りしやすい教室等の出入り口、I=建物に出入りしやすい昇降口や玄関)
▽宮城県石巻市(避難所としての活用を考慮した総合的なバリアフリー化)渡波中学校=新築(A、F、G)
▽さいたま市(改築、改修による総合的なバリアフリー化)与野本町小学校=新築+改修(A、B、C、F、G、H、I)/同・鈴谷小学校=改修(G)/同・第二東中学校=改修(G)
▽東京都豊島区(学校利用者の意見を踏まえた総合的なバリアフリー化)池袋第一小学校=新築/同・巣鴨北中学校=新築(A、D、F、G、H)
▽東京都町田市(給食の配膳を兼ねたエレベーターの計画的な設置)小山ヶ丘小学校=新築(C)/同・町田第一中学校=新築(E、F、G、I)
▽東京都立川市(普通教室にカームダウンに利用できる空間を設置)若葉台小学校=新築(C、F、G、I)
▽新潟県十日町市(アーケードにより雪国でも容易に外部から建物への出入りが可能に)十日町小学校、ふれあいの丘支援学校等=新築(A、B、D、I)
▽滋賀県近江八幡市(外付けのエレベーター棟の設置と既存不適格解消の対応)八幡小学校=改修+増築(F、G、I)
▽滋賀県大津市(理学療法士の助言を得たバリアフリートイレの整備)志賀小学校=改修(G)
▽大阪府豊中市(各階に同じ位置で配置された利用率の低いトイレを、床を貫通させ、エレベーターに改修)東豊中小学校=改修(F)
▽熊本県八千代市(難聴の児童生徒のためにユニット式の防音室を設置)B小学校=改修(C)/同A中学校=同/C中学校=同/D中学校=同
▽沖縄県沖縄市(給食配膳用のエレベーターを人荷共用に改修)美原小学校=改修(F)/同・越来小学校=新築(C、E、G、I)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年7月18日号掲載