誰にでも苦手な人はいるものですが、その苦手意識は「先入観」から作られていることもあります。例えば、過去に管理的な校長から嫌なことを言われたことがある人は、その経験や記憶から似たようなタイプの校長に苦手意識を感じるようになるのです。相手のことをよく知らないまま無意識のうちに相手を評価しているのですから、その評価は大きく変わる可能性があるのです。
特にこの時期は、異動や新採用で、慣れない職場環境で緊張の毎日を送っている教員がいます。異動の場合、前任校でのうわさが伝わってくることもあります。そのような情報により受け取る側の先入観が形成され、その上に第一印象が重なって、「やっぱりあの人はうわさ通りの○○だ」というレッテルを貼るケースがあるのです。
私たちは先入観で人を評価しがちですが、このタイプの人はこういう人だという評価は絶対ではないと考えたほうがいいでしょう。苦手意識を感じる人でも、何度か話すと評価が変わることもあります。
その最たるものは「保護者との関係」です。学校生活においてもコロナ禍が3年目を迎え、授業等はオンライン等を活用して進められたとはいえ、従来の対面による授業参観や保護者会・面談等を経験していない保護者がかなりの数に及んでいます。そのような状況で気をつけなければならないのは、保護者の学校や教員への先入観です。その先入観にもプラスとマイナスの両面があり、双方を理解したうえで上手に活用してほしいのです。
A先生は、放課後、空き時間を利用してクラスの各家庭に電話をして、直接保護者と話をしていました。内容は「本年度、新しく担任させていただくAです。今年1年、保護者の方と一緒になってお子様を支えていきたいと思いますので、宜しくお願い致します」。という趣旨の協力要請に、子供の学校での活躍の様子を「おまけ」に着けて伝えているそうです。時間にしてわずか1分余り。
特に我が子を初めて小学校や中学校に進学させた保護者は、保育園や幼稚園時代と同じように学校での子供の様子を知らせてほしいと願っています。そんな中、学校から初めて電話連絡が入ると(今まで何の接触もない)担任に対するネガティブな先入観を持っている保護者ほど、ネガティブな予想をするものです。
その先入観を逆手にとって、A先生のように「何も問題がない時の関係作り」を「先手を打って」行うことが大切です。このひと手間をやっておくと、実際に学校で問題が発生した時の保護者側の担任に対する「あたり」(反応)が違ってきます。保護者に対する初期対応を失敗してメンタルを悪化させないためにも、ぜひトライしてみてください。
異動した職場においてみんなから嫌われたくないと考えるのは自然なことです。しかしそれが思い込みではないかと、見直すことも必要です。嫌われないことが一番の「目的」になってしまうと、どの人にも合わせなければならなくなり、それは無理なことです。
例えば、ごく一部の人から嫌われているのに、「みんなから」嫌われていると感じる人がいます。それこそが間違った「思い込み」です。冷静になり自分を嫌っている人の数を数えてみれば、全員から嫌われているわけではないことが分かるでしょう。事実と思い込みを混同しないように心がけましょう。
自分が好かれているか嫌われているかは、結局は相手の感情であって、自分自身ではありません。コントロールできないものは仕方がありません。それより大切なことは、自分がこの職場の人間関係の中で、どのような貢献ができるか、お互いに協力し合えるのかを優先して考え、実践することです。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年6月20日号掲載