「パワーハラスメント」とは、権力や立場などの優越性を背景にしたいじめや嫌がらせを指します。労働施策総合推進法はかつて「雇用対策法」という名称で、「国」や「企業」の視点から、どのように労働力を確保するかに重点が置かれていました。その後、時代の変化で「自分らしい生き方」、「多様な働き方」等が叫ばれるにつれ、法律の視点は徐々に「働く人」の方にシフトしてきました。
しかし、これまで「パワハラ」という言葉には、法律上の明確な定義がなされていませんでした。
2019年6月から施行された「パワハラ防止法」では、①職場におけるパワハラが法律で定義された、②パワハラ防止対策が「国」と「企業」に義務づけられ2022年4月より実施義務規定となった、③パワハラ行為が明るみに出た企業は「ブラック企業」というレッテルを貼られ社会的な糾弾を受ける――このことは学校にとってパワハラが極めて大きなリスク要因になることを意味します。
条文では以下の要素を「すべて満たすもの」が職場における「パワーハラスメント」と定義されました。
①職場において、②優越的な関係を背景とした言動であって、③業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、④労働者の就業環境を害すること(身体的・もしくは精神的な苦痛を与えること)。
①「職場」とは、業務を挙行する場所であれば職場の外でも該当します、②「優越的な関係」とは、管理職と部下など、指示や命令を聞かざるを得ない関係(例外で部下から上司へのパワハラもありうる)、③ミスをした部下の人格を否定するような言葉は明らかに必要のない言動です、④業績が低迷する部下にその原因を問うのは業務指導の一環として認められますが、同じセリフを大声で怒鳴りつけるように何度も言うことは「労働者の就業環境」を害するものだと判断されても仕方がありません。
「身体的な攻撃」=暴行・障害/「精神的な攻撃」=脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言/「人間関係からの切り離し」=隔離・仲間外し・無視/「過大な要求」=業務上明らかに不要なことや遂行不能な量の強制・仕事の妨害/「過小な要求」=業務上の合理なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること・仕事を与えないこと/「個の侵害」=私的なことに過度に立ち入ること
パワハラの起こりやすい職場には、①管理職と部下のコミュニケーションが少ない職場、②失敗が許されない・失敗への許容範囲が低い職場、③残業が多い・休みが取りにくい職場などの共通点が有るようです。
パワハラを防止するために管理職は、部下のコーチ的存在であることが重要です。特に管理職が自分の経験や価値観を押し付けないこと、コミュニケーションを通して「情報提供」を行い、相手に解決策に関する自己決定を促すことです。
厳しい指導が、ときに部下の成長を促すことは否定しません。一方で、心を病んだり退職した人もいたはずです。人材が豊富だった時代にはあまり問題視されていなかっただけです。今日ではパワハラ問題を最も恐れているのは、むしろ「どうやって部下に接すればいいのか」に悩む管理職側かもしれません。
パワハラ防止のためには、職場での役割に上下関係があるとはいえ、①相手の立場や人格を尊重すること、②相手をパートナーだと考えること、この2つを大切にして管理職が先頭に立ち、安心して働くことのできる職場環境作りを目指してほしいと願うばかりです。
※(資料出所)『「パワハラ防止法」対応!「職場のハラスメント」早わかり』PHPビジネス新書/布施直春(著)
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年4月18日号掲載