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第83回 【教職員のメンタルヘルス】変革期の学校と教員メンタル

2022年3月21日
連載

異動の季節です。学校で「核」になる人が異動する年は校長の悩みは尽きませんが、若手教員を失敗させながら育てるいいチャンスかもしれません。それまできっちりと運営されてきた指導体制が、一時的に円滑さを欠く状態になるかも知れませんが。

例えば、学年主任との折り合いが悪くて苦労している若手教員がいます。学年主任自身は正しいことを言っているのに周囲からは「きつく」感じることがあるそうです。担任に進路指導や学級経営を任せきれない。修学旅行も自分が仕切って、その枠から外れる教員を許せない。仕事を任せて失敗するのが怖いという学年主任です。

近年、このような力のある教員が異動した後、同じくらい力のある人が入ってくるとは限りません。ベテラン教員が異動してはじめて学年主任に頼り切っていた自分に気づき、若手教員が自分の力で歩み始めるきっかけにもなるのです。

■失敗体験から育つ

若手教員を育成する際に、よく成功体験が大切だといいますが、一人前に育てるには、どこかで失敗させながら這い上がらせないと厳しいようです。とくに最近の若手教員を見ていると、大きな失敗や挫折の経験がないまま教職に就いている人が増えているためです。修学旅行を例にとっても、きっちり指導しているけど「子供と遊べない」。子供に「つきあう」けど子供と「ふれあえない」。子供を見る目が1000か、善か悪かの世界だけになってしまい、グレーゾーンの子供を受け入れられない、認められないようです。

教員の中でも失敗は許されないという雰囲気ができてしまうとメンタルが追い込まれます。懲戒処分の対象になるような事案は論外ですが、子供との意見のずれが少々生じて失敗した時などに、同僚から「ドンマイ」と流される場合と、「こうすればよかったのに」と説諭を受ける場合とでは安心感が違います。

■変わる学校の働き方

部活動が大きな転換期を迎えています。昭和の時代に当時の西ドイツでは学校単位で全国大会を開催していて、日本はそれを参考にして中体連、高体連ができたようです。しかし学校の負担が大きく西ドイツでは1年でクラブチーム単位の大会に変えたそうですが日本ではやらなかった。今でも学校単位で関東大会や全国大会を開催し、教員はサービス精神で関わったのですが、今の多くの若手教員に当時のような熱気はないようです。

部活動の指導者は今後、地域の人材、学校の先生をやりたかったという社会人等の指導により展開される方向で進むのではないかと予想されます。それに伴い働き方も勤務時間内で切り上げ、部活動はそれ以上やりたい教員が兼業願を出して自治体から手当をもらい取り組む。子供たちは放課後の活動に対しては、自分たちが保険料を払って有料の部活動になる。大会参加等についてはクラブチーム単位か学校か、問題は山積しています。現在、ふじみ野市や長野県等において試験的に実施されているようですので、推移を見守りたいと思います。どのような形になるにしても、教員のメンタルヘルスや学校文化に大きな影響を及ぼす要因の一つになるでしょう。

学校には大きな変革の時期が来ています。タブレットが当たり前になり、コロナの影響で今までの学校行事や地域とのかかわりを抜本的に見直す時期を迎えています。元に戻そうという動きではなく、「なるべく簡略化する」という流れになってくるのではないでしょうか。そういう危機感や話し合いを新しい校長先生たちがどう受け継いでいくかで学校のあり様が大きく変わってくるのではないでしょうか。学校が学習をするだけの場所になっていった場合、教科だけを教えることに魅力を感じない教員のメンタルは難しい局面を迎えるでしょう。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年3月21日号掲載

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