埼玉大学教育学部・戸部秀之教授が昨年夏に全国の養護教諭に行ったアンケート調査では、7割が「不安定な精神状態の増加」といった健康問題があると回答。背景として考えるのは「ゲームやインターネットの過剰使用」が最も多かった。コロナ禍が子供たちの心の健康に与える影響は、大人が考える以上に大きいと語る戸部教授に、養護教諭をはじめ学校関係者は、どのように現状をとらえ対処するべきか聞いた。
「コロナ禍と健康に関する調査は、長期の学校休業の不安やその間の生活の乱れなど多くの健康課題を含んでいたことから、今回を含め3回にわたり継続して実施してきました。前回調査までは課題が増えたか減ったのを明らかにする目的でした。今回はその背景にまで掘り下げました」
「今回の調査結果から分かった私の感想は、『養護教諭から見ると、子供たちのメンタルの不安定な状態は継続している』ということ。調査時は昨年8~9月でした。一昨年のような長期の学校休業はなく、感染症対策でソーシャルディスタンスや3密回避等は続いていましたが、授業も通常に近い姿で行われていたので、社会的には子供も慣れて落ち着いてきたのではないかとされていた時期です」
「しかし養護教諭の目からはまだ、落ち着いた状態とは言えません。ショックだったのは特に高等学校で、40%が『自傷行為や暴力などの問題行動が増えた』と回答があったこと。このように水面下から表れにくい事象が見えてきました」
「推測ですが、スクリーンタイムの増加はコロナ禍の以前から目に負担をかける要因として危惧されていたもので、そこにコロナ禍の学校休業により家庭で過ごす時間が増えたことが拍車をかけたのではないでしょうか。今後GIGAスクールにより画面の視聴時間が増えることから、従来に増して画面視聴の姿勢や生活習慣、家庭のルール作り等を連携して指導することが重要になります」
「今回の調査結果等の現状から、養護教諭はどのような位置にあるのだろうと改めて考えました。基本的な医学の専門知識を持ち、子供たちには日常的に接して健康状態を把握する立場、そして保護者とのコミュニケーションができ、担任や教員とも情報共有する、保健室を訪れる児童生徒とは直接会話もできる。保護者や担任には言えない本音を明かす子供もいます。子供・学校・家庭・医学すべての情報が集まる立場です」
「家庭では見えない、教室では見えない子供たちの情報を集約して、全体に発信することができる立場です。例えば先ほどの、表に出ない問題行動が増えているという養護教諭から見たコロナ禍の現状や、大人になかなか言えない子供の本音を、保護者や他の教職員に届けることも役割です」
「保健主事がキーになり、養護教諭と連携して学校の活動全体を企画していくことが望ましい体制。学校保健委員会がうまく機能した例があります。コロナ禍のためWeb開催で公開にしたところ、従来は集まれなかった多くの保護者が参加でき、コロナ禍の健康へのかくれた影響まで情報を伝えることができて役立ったそうです」
コロナ禍が児童生徒の心の健康問題に与える影響を明らかにするため埼玉大学教育学部・戸部秀之教授が、全国養護教諭連絡協議会が昨年8~9月オンラインで行った第23回研修会を視聴した養護教諭を対象に、アンケート調査を実施。そこからは「不安定な精神状態」や「学校生活に適応できない」児童生徒の増加を実感したという回答が7割近くあった。
「不安定な精神状態」の児童生徒の増加は小・中学校で69%代、高等学校と特別支援学校では70%にのぼった。「学校生活に適応できない」児童生徒の増加は、中学校が67・4%で最も多かった他、小学校58・0%、高等学校43・3%、特別支援学校30・0%、全体で56・3%だった。
さらにその背景と思われることを聞いた設問では、「ゲームやインターネットの過剰使用」が全体の63・5%。中学校では69・6%で7割近くにのぼった。次に「コロナ禍が長期に及んでいること」が多く全体で61・1%。これに関連すると思われる「生活リズムの悪化」が59・9%で続いた。
次に多かった「学校行事の縮小や中止」(全体で49・7%)や「学校における会話の制限、身体的距離、遊びや活動の制限」(46・7%)は学校種によって差が見られた。「学校行事」は中学校(58・7%)や高等学校(56・7%)でより影響が大きくみられた。一方で「会話の制限」等は小学校で53・1%だったが中学校は43・5%、高等学校は40・0%、特別支援学校では30・0%。さらに「部活動の制限」は中学校が45・7%で突出していたなど、校種による違いが現れた。
主なコロナ禍の要因と学校種の数値は上のグラフを参照。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年2月21日号掲載