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日本の食育を切り拓く人材を育成~服部栄養専門学校理事長・校長 服部幸應氏

2021年10月18日

服部栄養専門学校理事長・校長 服部幸應氏

第4次「食育推進基本計画」(以下、第4次計画)が2021年4月からスタートし、今後5年間をかけて、食育の推進に向けて24の具体的な目標値の達成を目指して動き出す。「食育推進評価専門委員会」座長として計画策定に携わってきた服部栄養専門学校の服部幸應理事長・校長に今回の策定のポイントについて聞いた。

一目で分かるピクトグラム
第4次計画の目標達成に向け

―今年度から第4次「食育推進基本計画」が動き出しましたが、特徴として、どのような点が挙げられますか。

今回、食育の取組がひと目で分かるように「食育ピクトグラム」を作成したことが大きなポイントの1つです。第3次「食育推進基本計画」までは言葉だけで食育を伝えようとしていましたが、誰にも一目で分かるものとして、12のテーマを絵文字にして食育ピクトグラムを作成しました。

4次計画は全部で16の目標と24の具体的な目標値が設定されています。12の食育ピクトグラムには24の具体的な目標値の、どれに当たるかが割り振られています。例えば、第4次計画では、朝食を欠食する児童の割合を5年後までに0%にするが具体的な目標値として設定されており、それは食育ピクトグラムの「朝ごはんを食べよう」にあたります。今後、本校の学生にも食育ピクトグラムを伝えて、目標達成を目指していきます。

―これまでの食育推進基本計画の経緯を教えて下さい。

食育基本法は20056月、小泉政権下で成立しました。第1次から第2次までは内閣府により進められ、第3次から農林水産省に引き継がれました。第4次計画を作成する際には、第3次の目標の達成状況を振り返り、新しい目標の設定や目標値の見直しなどを行いました。

今回、1日あたりの果物摂取量100g未満の人の割合を30%以下とすることが目標とされていますが、現状値は倍にあたる616%です。昔はスイカや柿など四季折々の果物を食べていたのが、今の子供は果物を食べなくなりました。

食育推進基本計画は、それまで知育・徳育・体育の教育3本柱だったのが、これからは食についても考えるべきだと「食育」を入れようと訴えたのがきっかけです。その後、食育推進評価専門委員会を立ち上げて食育推進基本計画が動き出しました。最初は食育の意味が伝わらない人も多かったのですが、ようやく浸透してきました。

戦後、日本の就業者の約半数を占めていた第1次産業は高度経済成長期を経て、今では農業従事者が160万人、漁業従事者が13万人まで減っています。それが食料自給率の低さにつながっています。1965年には73%だった日本の食料自給率は38%にまで減少しています。農林水産省が進めている「みどりの食料システム戦略」では2050年までに化学農薬の使用量を50%低減、化学肥料の使用量を30%低減、有機農業の取組面積を100haに拡大することを掲げて取り組んでいます。この目標が30年後に達成されることを願っています。

食育は、これからの日本の子供たちの成長に大きく関わってくるので、省庁の垣根を超えて進めていく必要があります。今後、第4次計画の目標達成に向けて、食育ピクトグラムと共にアピールしていければと思います。

―服部栄養専門学校では「渋谷ワンダフル給食プロジェクト」に協力されています。

これは渋谷区から協力を依頼されて実現したもので、渋谷区にある小中学校25校の給食監修を行います。子供が喜ぶような給食を栄養バランスなども配慮しながら提供します。これまで学校給食では見たことがない、新しいメニューに挑戦することで学校給食の可能性を広げていきます。

本校で給食の献立を考案し、渋谷区の学校の栄養士等を招き、レシピを試食してもらいます。そこで、調理設備の違いから提供できないことがないよう、大量調理の現場で提供するには、どのような手順が必要かを確認していきます。

渋谷区の学校給食は自校式で提供されるので、どの学校の設備でも提供可能な献立を考えます。子供が喜ぶ給食が提供できると分かれば、他の区市町村や都道府県でも、良い刺激となります。学校給食を通じて、これまで食べたことのない献立に出会うことで学校に来るのが楽しみになるはずです。

―食が人や社会に与える影響は大きいのでしょうか。

9月には『食育入門』が刊行された

「渋谷ワンダフル給食プロジェクト」では、動画で「食育について」語っています。私が9歳の時、近所の沼で遊んでいたら、大人が来て沼の色が変わるほどの油を捨てていきました。すると翌朝には沼の生き物が、みんな死んでいました。こんなことをしていたら地球の生き物が全滅してしまうと、それが環境と食について考えたきっかけでした。

レイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」には、アメリカ・カリフォルニア州のクレア湖で1957年に大量の渡り鳥が死亡した出来事が書かれています。生物学者のレイチェル・カーソンが調べたところ渡り鳥の体内からDDTが検出されました。ブヨを退治するために散布したDDTが湖に落ち、それをプランクトンが食べ、そのプランクトンを魚が食べ、そして渡り鳥が魚を食べ、食物連鎖を繰り返すうちにDDTが濃くなりました。

レイチェル・カーソンはDDTの散布に反対しますが、当時は誰も耳を貸しませんでした。DDTの散布が禁止されたのは彼女の死後でした。食物連鎖により、人間が自らまいた農薬で渡り鳥の悲劇を繰り返さないためにも食について考えることは重要です。知育・徳育・体育だけでなく、人の命を支える根幹である食育について教育という観点から見つめ直す必要があると思います。

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年10月18日号掲載

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