災害が起きた時、栄養バランスのとれた学校給食は、子供たちの健康と成長に重要な役割を果たします。バリエーション豊富な冷凍食品はどのように活用すれば有効か聞きました。
近年、全国各地で起きている震災や豪雨被害は、一たび起こると大事になり、長期に渡って影響を及ぼす傾向があります。今回のコロナ禍も、私たちが経験する新たな災害です。そうした中では食の課題が大きくなります。
ライフラインに関わる、断水や停電、ガスが止まる、調理器具の故障といった状況下では、家庭でも本当に充分な食事は期待できないでしょう。学校給食として提供が可能なのであれば、安心・安全で、栄養バランスの整った形に近づける努力をする必要があります。非常時だからこそ、学校給食で栄養素を補わなければならないとも言えます。その様な場面で、冷凍食品は扱い方やストックする内容によって、非常に有効に活用できると考え、注目しています。
東日本大震災の際、被災地からは「食べてホッとする非常食が欲しい」「日常の中に取り入れられる非常食が必要」という意見がありました。また大きな災害の中では、食事はメンタル面にも作用します。普段から馴染みのあるデザートのパッケージを見るだけでも、子供たちは日常に期待を持つこともできるようです。これらはまさに冷凍食品が担えることだと思います。
様々な災害の状況を想定しながら対策を考えるのは非常に難しいことでもありますから、特別な非常食として捉えるのではなく、日常の食生活で使うものとして冷凍庫に常備し、使い切ればまた補充し、日々更新する形で、常に一定のものが冷凍庫にある状態にしておくのが良いのではないでしょうか。種類も幅広いので、主菜、副菜、デザートをそれぞれストックし、場面に応じて賢い使い方をする。これは学校給食でも家庭でも実践したい取組です。
災害時にはとにかく命をつなぐことが第一ですが、一方で子供たちは待ったなしの成長期でもあるのです。災害時の支援物資は、どうしても米やパンといった炭水化物が中心になります。これらはエネルギーを満たし、お腹も満たすことができますが、一方でたんぱく質やカルシウム等の成長期に必要な栄養素は不足するので、長期に渡って炭水化物に偏った食事を子供に与えることは健康問題につながってきます。また栄養学の観点では、ストレスを受ける環境にいると、エネルギー代謝に必要なビタミンB1、抗酸化作用や抗ストレス作用のあるビタミンCも特に必要になります。
それらの栄養素を補いたくても、生の野菜がない、水が潤沢に使えない場面は容易に想像できます。冷凍食品は、調理しやすいよう、野菜はすでに洗ってカットされ、下処理が済み、栄養価が高いまま瞬時に冷凍されており、肉類であれば加工されているので、極めて安全で安心であり、期待される点です。
給食施設には食料の備蓄の設備があり、災害時にも冷凍食品も含め何等かの食材があるので、それを使いながら食事をつないでいく形になります。停電の際は保冷のストッカー等の対応が可能です。これをさらに非常時に向けた対策として積極的に活用し、給食に使いながら給食施設に冷凍食品を蓄えておく選択肢も有効と考えます。
文部科学省が今年3月に公表した資料(=別枠)によると、大型店の冷凍庫を活用した事例や、地域と連携し、大規模な仕組みを構築する自治体もあります。今後は予測不可能な災害も増えると考えられますから、そうした体制作りもより一層必要となるでしょう。
大きな災害が起こり、ライフラインが途絶えたと想定してみます。停電で冷凍庫がストップしても、冷凍食品が溶けるまでには2~3時間の猶予がありますので、その間に解凍すれば使える材料は使うようにします。
冷凍のイチゴ等のフルーツは、そのまま配って食べることができます。特に被災し混乱した中では手に入りくい食材でもあり、ビタミン補給に最適です。熱源がない場合も、出来上がった加熱済みのデザートであれば食べることができます。
様々なバリエーションも考えられます。熱源があれば冷凍のパンを解凍して焼いた冷凍ハンバーク等を挟み込む等、冷凍食品同士を組み合わせた一品を作ることもできます。
なお、災害時の食事の際、アレルギーを持つ子供への配慮はとても重要です。最近ではアレルゲンフリーの冷凍食品も増えてきました。
全国の学校では必ず防災訓練を行っており、非常食としての学校給食を提供します。その際、レトルト食品等の1品では栄養素が足りないため、冷凍食品の主菜やデザートも組み合わせて提供するケースもみられます。
またコロナ禍における文科省の学校給食の再開に向けての指針では、通常の提供方法は困難でも、適切な栄養摂取ができるように配慮し、調理員の安全面に注意して作業する、配膳の過程を省略できる品数が少ない献立、調理場で弁当容器に盛り付ける等の工夫が示されました。実際に、パンと牛乳、カップ入りのゼリー、そして冷凍の揚げ物を揚げてパックに詰め、持ち帰り給食にしたという報告があります。
ハンバーグなどの手作りが絶対できない状況の中で、冷凍食品が全国でかなり活用された実態があります。今後の災害対策を考える上でも、意義のある取組と言えるでしょう。
文部科学省では、2021年3月、『災害時における学校給食実施体制の構築に関する事例集』を公表した。本事例集では、全国の自治体での災害時における学校給食実施体制の構築についてのアンケート調査と分析、被災時の実際の対応、11の自治体の取組を紹介している。冷凍食品の活用も取り上げている。
新型コロナウイルス感染症拡大のため、全国で休校措置がとられた2020年3月、黒潮町立大方・佐賀学校給食センターでは、3月9~19日の平日9日間、児童生徒に学校給食の代わりとして弁当を配布した。小学校8校、中学校2校の児童生徒約600人のうち、希望者1日平均260食前後の弁当を同センターで作り、学校から地域ボランティアの手を経て配付。子供たちからは「給食と同じ味の弁当が食べられて嬉しい」との声があったほか、家で留守番する子供の食を心配していた保護者からも喜ばれたという。
献立は3月の給食献立を弁当用に作り直し、弁当箱に詰めやすいよう汁物は煮物に変更するなど工夫した。冷凍食品のハンバーグやブロッコリーを加熱し、自然解凍で使えるほうれん草のごまあえ、衣付きの魚の唐揚げを揚げるだけ、といった、調理の手間を省きながら栄養バランスを整える内容とした。「特に冷凍食品は初めて使う食材もあり、便利なものが数多く出ていることがわかった」(佐賀センター・岡本恵子栄養教諭)
非常時の災害食と言えば、レトルト非常食の「カレー」や「豚汁」。美味しいけれど、ずっと続くとなると、たとえ温かいものであっても飽きてしまいます。そこで、さまざまな制限がある中でも冷凍食品を活用することでレパートリーを増やし、子供が期待する豊かな学校給食が提供できます。
ここで紹介する対応メニューは、生鮮食料品が調達できなくても、炊飯器(電気・ガス)、回転釜(ガス)が使用可能であれば調理ができます。水道使用が不可でも、無洗米・冷凍品使用で実施可能です(但し料理に使用する水は調達が必要です)。お好みで食材をプラスしてもいいですね。
献立案:大留光子氏(元・栄養教諭、学校給食情報サイト「おkayu」ディレクター)
材料:人参(イチョウ切り)、ほうれん草(カット)、炒り卵。
※ツナ缶※豆腐は、豆腐50gを高野豆腐20gで代用。※ごはん
エネルギー量361KCal、蛋白質13.0g、脂質8.9g、カルシウム77KCal、鉄分2.1㎎、レチノール当量78ug、ビタミンB1 0.10㎎、ビタミンB2 0.12㎎、ビタミンC 3㎎、食物繊維1.6g、食塩0.8gほか
材料:すいとん、豚肉(小間切れ)、ジャガイモ・人参(イチョウ切り)、かぶ(半月切り)、かぶの葉、玉ねぎ(スライス)、
※乾しシイタケ(スライス)
エネルギー量195KCal、蛋白質7.9g、脂質4.9g、カルシウム37㎎、鉄分0.8㎎、レチノール当量109ug、ビタミンB1 0.17㎎、ビタミンB2 0.11㎎、ビタミンC 13㎎、食物繊維2.8g、食塩0.7gほか
材料:豚肉(角切り)、さつま芋(乱切り)、人参(乱切り)、タケノコ(乱切り)、玉ねぎ(くし形)、さやいんげん(カット)
エネルギー量240KCal、蛋白質9.6g、脂質9.4g、カルシウム41㎎、鉄分1㎎、レチノール当量104ug、ビタミンB1 0.29㎎、ビタミンB2 0.11㎎、ビタミンC 12㎎、食物繊維2.8g、食塩0.7gほか
冷凍食品は現在さまざまなものがあるので、活用しやすくなりました。野菜であれば、ホールのジャガイモ、カボチャのイチョウ切りといったように、カット野菜でもさまざまなカットのものがあり、用途によって使い分けられます。
常備していなくても、生鮮食品が流通していなくても、冷凍なら仕入れができたり、(朝届いて自然解凍でも使える)、保存施設(冷凍庫)のスペースがあれば冷凍野菜を常備し、日常的に活用しながら非常時に備えることも有効です。
冷食ONLINE:https://online.reishokukyo.or.jp/
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年10月18日号掲載