新型コロナ発生時から学校現場では、終始一貫した消毒作業やソーシャルディスタンスの徹底、学校行事や部活動の対外試合の延期や中止等、感染拡大防止のために創意工夫を重ねながら細心の注意を払って対策を講じています。その様子が外部になかなか伝わらないのが口惜しい限りです。
しかし最近では子供自身が校外で感染し、家庭内感染が発生するという状況が拡がり、学校に感染が持ち込まれる危険性が今まで以上に高まっています。
それらの影響を踏まえ、2学期の開始時期を遅らせる学校や、登校を控える家庭も散見されるようになりました。終息の道筋が見えない中で教員も、自らが感染してはならないというプレッシャーに押しつぶされたり、不安感にさいなまれたりする人がいても不思議ではありません。コロナ感染の影響が、このように教員のメンタルヘルス(以下メンタル)にも微妙な影を落とし始めています。
教員がメンタルを悪化させたような場合、職場からその教員を排除するのではなく、するべきことを本人に見えるように手助けすることが、管理職の重要な職務の一つではないでしょうか。そこで、管理職が行うメンタル予防に関して、特に「マインドセット」(意識改革)に焦点を当てて検討します。
問題解決のための取組が成功するか否かの結果は、本人の努力のほかにも様々なファクターが関与して生じるものです。しかし結果に至るまでのプロセスは、まさに本人の努力の賜物です。そのプロセスを重視してくれる管理職かどうかが教員のメンタルに大きく影響を及ぼすのです。
教科指導や生徒指導の際に、うまく出来なかったりすることは多いものです。そんな時、うまく出来なかった=「失敗」という認識を、「失敗」=良い「経験」が出来たと受け止めるように意識するのです。このマインドセットが出来るようになると、「同じ失敗を繰り返さないようにするにはどうするか」とポジティブな受け止め方になり、更なる成長が期待できるようになるのです。
「よく頑張った」「素晴らしい出来でした」等、評価する(ほめる)行為は、管理職と教員という「縦」の人間関係の中で行われる営みです。縦関係の弊害は、どうしたら管理職に気に入られるか、評価されること自体が「目的」となってしまうことです。
確かに役割上は縦関係ですが、一人の人間としては対等であるという前提にたつのが「横」の人間関係です。横の人間関係を意識して、管理職は部下に接するように心がけてみてください。例えば、結果がうまくいったときは「良くやった」とガッツポーズで、うまくいかなかったときは「残念だ」というように、むやみに評価するのではなく、「感謝」の気持ち(アイメッセージ)を伝えるようにするのです。
管理職が感謝の気持ちを伝え続けていると、教員は管理職の顔色をうかがって必要以上に一喜一憂することもなくなり、教員のメンタルはしだいに安定してくるのです。
体調が悪いのを承知で我慢して働き続け、病状が悪化して休暇に入ると、休む期間が1、2日ではすみません。代替教員がなかなか見つからない現在、欠員が発生すると学校現場は深刻な人手不足に陥ります。
そんな事態を避けるため積極的に休暇を取らせる学校があります。学年会等で真っ先に行うのが休暇の相談。「子育て・介護はお互い様」「リフレッシュしてきなさい」と積極的に休暇を奨励しているそうです。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年9月20日号掲載