第62回全国栄養教諭・学校栄養職員研究大会が8月5・6日、群馬県・Gメッセ群馬からWeb配信によりオンライン開催された。大会は全体を通して栄養教諭に求められる資質・能力とは何かを問いかける内容。初日の基調講演やシンポジウムでは各発言者から「専門性の発揮」と「教諭としての資質」、これらを実現させるコミュニケーション力の重要性が指摘された。
大会は「栄養教諭を中核とした学校における食育の推進」がテーマで、文部科学省、群馬県・高崎市教育委員会、(公社)全国学校栄養士協議会等の主催。初日全体会では基調講演、シンポジウム等が行われ、2日目は課題別に8分科会が開催された。
開会で同協議会会長の長島美保子氏は、コロナ禍で3か月におよぶ学校休業の中、心配されたのは子供たちの栄養の偏りと運動不足による健康・精神面への影響だったと述べ、「動画による簡単な献立紹介などを、HPの活用等で学校での食育が途切れないよう情報発信してきた」と報告。今年4月スタートした第4次食育推進基本計画の中では「バランスのとれた食生活と食を大切にする力の定着には、栄養教諭の役割が大きい」と述べられているが、私たちが中核となり子供たちの食を通した生きる力の育成のため研鑽を積んでいきたいと語った。
開会式では同大会の次期開催地・大分県から、教育庁体育保健課の加藤寛章課長からビデオメッセージによるあいさつが放映された。
続く文部科学省説明は初中局健康教育・食育課の三木忠一課長から、栄養教諭の現状と期待について、栄養教諭の配置促進に向けた同省の2つの取組を紹介。栄養指導やアレルギー対応などの専門的で個別的な指導を中心に、栄養教諭の配置の効果を調査し、現在、公表準備中であること、栄養教諭の役割について保護者をはじめ広く知らせるPR動画を作成、今年3月に同省YouTubeチャンネルに公開したことを紹介した。
まとめとして「栄養教諭に求められる役割」を大きく分けると、「給食管理」と「食に関する指導」であること。
給食管理はデジタル化等の効率化を加速する必要がある。両輪として取組の先にある目的は「学校における食育の推進」にあること等のプレゼンを行った。
シンポジウムは「これからの栄養教諭に求められている資質・能力」について討議。コーディネーターは文科省学校給食調査官・齊藤るみ氏、シンポジストは同食育調査官・清久利和氏、お茶の水女子大教授・赤松利恵氏、東京都調布市立深大寺小学校長・濱松章洋氏、群馬県太田市教委指導主事・松岡映子氏、高崎市立倉渕中学校栄養教諭・濱名美樹氏が登壇した。
学校現場の栄養教諭である濱名氏は給食時間の減塩指導、近隣小学校への訪問、図書委員会とコラボして「『名探偵コナン』の“肉じゃがカレー”」のイベント、全校で取り組む「弁当の日」等の実践を紹介。栄養教諭がコーディネーターの役割を果たしている事例として報告した。
教委の立場で市内35人の栄養教諭・栄養職員を運用する松岡氏は、IT活用による指導体制の整備に取り組む様子を報告。ご飯・みそ汁づくりと栄養指導をスマホで撮影・編集し、栄養士不在の学校でも家庭科授業で活かせるよう準備しているところだと語る。
濱松氏は学校経営の立場から、なぜ食育が進まないか考察。自校での経験をもとに「食育への教員の意識が低い」「各自が自分の成育歴からバラバラに指導している」等が阻害要因であると指摘。給食は出汁からとっていること、厳しく衛生管理が行われていること等知らないことが多く、知らせた時のインパクトが大きいと共に教員から「子供たちに教えたい」と「給食の授業化」につながったと報告した。
文科省・清久氏は文部行政の取組を背景に栄養教諭への期待を説明。第一に管理栄養士・栄養士の資格を持つ「唯一の教師という自覚」を持ち、その専門知識を活かせるような「自律的な学び」の姿勢を持ち続けたうえで、教諭として「発信力を含めたコミュニケーション能力」であるとまとめた。また前出の文科省説明でも触れられた、現在制作中の「栄養教諭の配置効果に関する調査研究」でも、特に偏食や肥満・痩身、アレルギー対応などでの指導に管理栄養士・栄養士としての専門性を発揮することへの期待を強調した。
コーディネーターの齊藤氏は、「栄養教諭が自分から情報発信していかなければ、給食調理室の中は外から見えない」とし、より積極的に発信するコミュニケーション力を高めることが今後ますます重要になると括った。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年8月16日号掲載