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第77回 【教職員のメンタルヘルス】メンタル不調に効く言葉かけ

2021年7月19日
連載

メンタル不調に陥った時、自分が教員を目指した原点(内発的モチベーション、例えば「教員という仕事を通して、子供の役に立ちたい」「子供と接するのが好き」「尊敬する恩師のようになりたい」)を明確に持っている人ほど、逆境に強く心が折れにくいようです。

内発的モチベーションはさらに、職場適応がうまくいくかどうかに大きく関わってきます。

■職場適応の2つの側面

職場適応には大きく分けて2つの側面があります。

1つ目は「仕事上」の側面です。本人がやりたい仕事であるかどうか、その仕事にやりがいや楽しさを見出せるかどうか、つまり内発的モチベーションに合致した仕事かどうかという点が大きいようです。

さらに、働き方がその人の現状に合っているかどうかという点も大切で、例えば基礎疾患を有しているのに、長時間労働やみんなと同じような働き方を強いられる場合、この点でつまずくかもしれません。

また別の視点で、求められている仕事をこなせるスキルを当人が十分持っているかどうか、役職上、身についていなくてはいけないものがその時点できちんと備わっているかどうかという問題もあります。

もう1つの側面は「人間関係」です。その学校現場の人間関係にうまく溶け込み、良いチームワークを築けるかどうか。仕事自体はその人に合ったものでも、職場の同僚や管理職とのコミュニケーションがうまくとれない等により、職場不適応に陥るケースが後を断ちません。

■対人専門職ゆえの不調

教員や看護師等の対人専門職にメンタル不調者が多いようです。仕事の範囲が複雑で責任と権限(何をどこまでやればいいのか)が明確になっていないこと、求められる技術水準の幅が多岐にわたっていること、しかも次々に新しい教育技術が生まれ、それをどんどん吸収していかなければならないこと、などが不調の原因になっているとも考えられます。

仕事の対象者は、発達途上の子供や学校不信等の保護者です。相手に合わせて対応を考えなければならないので、どうしても経験に基づく知識やスキルが必要になります。しかも多くの場合には、どんなに経験が浅くとも、個人の判断にまかされます。その結果、すべて一人で向き合わなければならないという窮地に追い込まれがちで、最後には誰かが救いの手を差し伸べなければ、メンタル不調になってしまいます。

■相手を認める言葉かけ

そもそも、最初から仕事をやる気がない人は、それほど多くありません。それなのに挫折してしまう大きな原因の一つには、「自分の頑張りを見てもらえていない」と感じてしまうことがあります。仕事で失敗して叱責されるのは、あくまで「結果」に対してです。「頑張っている姿を見ていた」という努力の過程をフォローする言葉がなく、「誰が責任を取るの?」で話を終えられたら、心の逃げ場がなくなってしまいます。

人は基本的に、「叱る」と「認める」のどちらか一方のストロークしか発しない人の言葉は、心を素通りしていくものです。失敗したりミスをしたりした人は、少なからず本人に「自責の念」があります。心が一杯いっぱいになってつらい状況で「ああすべきだった」、「こうすればよかったのに」と言われても、その言葉は頭には入りません。ところが「頑張ったね」と認める言葉をかけてあげると、心の中に「相手の言葉を受け入れるスペース」ができるのです。この順序がとても大切なのです。

メンタル不調を抱える人は、「正しい解決策」を欲しているのではなく「このつらい気持ちを分かってほしい」と感じているのです。そのためには「お前も大変だよな」と寄り添ってくれる空気を職場内にいかに作れるかが大切でしょう。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授(教育相談)

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年7月19日号掲載

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