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学校施設

気づきにくい子供の筋疾患~小児科に相談を~卒業後を見据えて適切に支援する

2021年6月21日

子供にみられる筋肉の病気の中でも、代表的かつ注意すべき病気である筋ジストロフィーは保護者や教員、養護教諭など周囲の大人が早い段階で病気に気づき、適切な医療の機会を与えることが求められる。日本新薬株式会社主催のWeb市民公開講座「知っておきたい 子どもにみられる筋肉の病気~大人が支える子どもの現在と未来~」(後援:文部科学省、一般社団法人日本筋ジストロフィー協会)では、筋ジストロフィーを中心に病気や学校教育の観点から心掛けることが講師の3人から語られた。

筋ジストロフィーとは

筋肉が壊れやすく、筋肉の再生が追いつかなくなる病気。筋力が徐々に低下し、運動機能など様々な機能に障害が起こる。原因や症状により数種類に分類されるが、発症頻度が高いものとして、主に男児に発症する「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」がある。


早めの受診と診断が大事
国立精神・神経医療研究センター
トランスレーショナル・メディカルセンター長 小牧宏文氏

子供にみられる筋疾患のほとんどが希少疾病であるため、気づくのが遅れることが多い。

筋疾患は進行が遅く、症状が発達期と重なるため、子供の個性なのか病気なのか判断が難しい面がある。

気になる症状がみられた場合、病院への受診を躊躇することなく、早めに相談し、治療をスムーズに行うことが大切だ。筋ジストロフィーの場合、整形外科よりも小児科医の診療を受けることが望ましい。

生後5か月でも首がすわらない、1歳半を過ぎても歩けないなど運動発達の遅れから病気に気づくこともある。走る、ジャンプなどの運動が苦手で受診するケースも多い。

インターネットを使って子供の症状を検索する人も多いが、間違った情報を発信しているサイトもある。医学的に信頼できるサイトを利用することが求められる。

日本新薬などが運営するWeb「もしかしてNMD?」ではNMD(神経筋疾患)でみられる症状をクイズ形式で表示している。

気になる症状がある場合は専門病院への受診を勧めている。

変わる特別支援教育と制度
国立障害者リハビリテーションセンター病院 病院長
元・国立特別支援教育総合研究所 病弱教育研究部長 西牧謙吾氏

医学の進歩とともに、特別支援教育の教育制度も大きく変わろうとしている。「可能な限り同じ場で共に学ぶこと」を目指して通常教育との間の壁は低くなっている。これまで特別支援学校に入学した子供は卒業するまで通い続けたが、現在は症状の変化に合わせて適切な学校を選べる。

筋ジストロフィーの子供が、通常学校か特別支援学校に通うかは、病気の進行度合いから判断する。また、保護者の気持ちだけでなく、本人の気持ちをしっかりと聞くことが大切だ。

小中学校の教員に筋ジストロフィーについて理解してもらうため、DMDライフマップを作成した。病気の進行や治療法、学校での具体的な支援、高校卒業後を見越した教育についてわかるようにした。

医学の発達で筋ジストロフィーの治療は大きく進展した。教育や福祉は追いついていない面がある。かつて平均寿命が20歳と言われた筋ジストロフィーも医学の進歩で、卒業後の人生も見据えた教育が求められる。

社会とつながる体験を
東京都立小平特別支援学校
武蔵分教室 副校長 櫻井淳一氏

都立特別支援学校には視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害、病弱教育部門の5つの障害種に対応した学校があり、約1万2000人の児童生徒が学んでいる。

病弱教育拠点校である小平特別支援学校武蔵分教室は、国立精神・神経医療研究センター病院に入院または短期入所している子供を対象とした長期在籍学級と短期在籍学級、多摩北部地域の病院に訪問教育を行う訪問学級に分かれる。

特別支援学校の教育課程に設けられた指導領域として「自立活動」があり、健康の保持や心理的な安定など、多角的な視点から把握した児童生徒の実態から課題を整理する。それぞれの課題が児童生徒の中で、どのように関連しているかを紐解いて指導目標を設定する。

病院を生活の場としている児童生徒にとって、社会とつながりが持てる体験を積み重ねることが大切。オンライン授業や季節が感じ取れるような戸外学習など、病院という限られた環境の中でも様々な体験ができるように工夫している。

座談会
卒業後を見据えて適切な支援を

筋ジストロフィー患者で文部科学省障害者学習支援推進室に勤務する柴﨑浩之氏と、筋ジストロフィー患者の保護者である金子昭恵氏を迎え、病気と向き合いながら様々な経験を重ねてきた2人と、講師の小牧宏文氏、西牧謙吾氏、櫻井淳一氏が討議した。
―――――◇―――――

柴﨑浩之氏

柴﨑浩之氏

柴﨑 小学校4年生の時にベッカー型筋ジストロフィーと診断され、そこから「自分自身で病気を治す」ことを目標にしてきました。現在は文部科学省で学校卒業後の障害者の学びの支援をしています。

金子 息子はデュシェンヌ型筋ジストロフィーで大学卒業後はボランティア活動などをしています。4歳頃からよく転ぶようになり気になっていたところ、保育士から「散歩を嫌がったり、足を痛がることがあるので病気かもしれない」と指摘され受診しました。

金子昭恵氏

金子昭恵氏

小牧 デュシェンヌ型の症状は発達期にみつかることが多く、同じ年頃の子供を横断的に見る保育士は比較的早く気づく傾向にあります。

柴﨑 自分は小学校の養護教諭から足の運びがおかしいと指摘され、小児科で診療を受けました。高校ぐらいからは成人後も見据え、国立精神・神経医療研究センター神経内科に移りました。

小牧 小児科から成人後の治療に移行するバトンタッチが重要です。このバトンタッチが必ずしも、うまくいかない場合があるようです。

金子 子供の学校を決める際は、近所に友達がほしかったこともあり、公立の小学校や中学校に通わせました。その後、中学3年から特別支援学校に転入しました。

櫻井 特別支援学校に入学後も地元の学校に学籍を残す復籍制度があります。それを利用して定期的に授業交流を行いながら友達を作るケースもあります。

柴﨑 学校は患者である子供の意見に耳を傾けてください。本人から話を聞き、課題を共有し、当事者性を持って困難を乗り越えてほしい。

西牧 視察で見たデンマークの学校のケースを思い出しました。主治医だけでは解決しない問題に向けて、カウンセリングが充実していました。そこでは患者の児童・生徒がカウンセラーに話しかけやすい環境になっていました。

柴﨑 筋ジストロフィー患者に限らず多様な人々が、多様な選択をできる社会を実現し、そのような社会で、自分に適した選択をし、人生を楽しめる世の中にしていきたい。

金子 子供が幼い頃は将来への不安から、息子の心を傷つけることもありましたが、通院先で心理相談を受け、心が軽くなりました。悩んでいる保護者がいたら、そうした場所があることを知ってほしいと思います。

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年6月21日号掲載

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