年々、ICT等を活用した学習システム等が学校現場に普及する一方で、これまで以上に教員のコミュニケーション能力が求められるようになってきます。このコミュニケーション能力とは「いかにして生徒の話を最後まで聞くことができるか」という能力です。
そこで今回は、「子供や保護者の話を聞くための様々なスキル」の一部をご紹介したいと思います。
生徒は、いくら授業が上手でも上から目線で指導してくる教員の話は真剣に聞こうとしません。上から目線とは以下の2点です。
①生徒の話を聞く前に、教員の思いを「先」に話してしまうケース。②生徒が話している途中で「でもな」とか「そう言うけど」という接続詞で話を遮ってしまうケース。いずれも「子供の話を最後まで聞かない」ことが共通点です。
まずは、わがままで言葉足らずの子供達の話を「なるほどね」「そうだったんだ」と(自分の話を先にしないように注意して)最後まで聞いてあげてください(第1関門)。実際にはこれが一番苦手なようです。すぐに「あるべき姿に指導したがる」からです。
次に、子供の話を最後まで聞いた後、「そうか、君もしんどかったね」とか「ここまでよく頑張ってきたね」など、話を聞いた感想や印象を一言二言添えてください(第2関門)。
ここまでの話を聞くと「これだけでいいのか」と不安になるかもしれませんが、不思議なもので、子供達は「自分達の話を最後まで聞いてくれる」大人の話はちゃんと聞いてくれますから。
ある程度、話の流れが経過すると、次は解決策をどのように導き出すのかという疑問にぶち当たります(第3関門)。その参考になるのは、次のような考え方です。
解決策を考える際に、問題解決の視点をどこに置くかによって、そのあとの解決策の幅が違ってきます。
例えば、「仕事が忙しいから(原因)恋人を作る暇がない」、「学歴がないから(原因)頑張っても認められない」のように、環境や過去の出来事によって人間の行動や性格が決定されるという考え方があります。これを「原因論」と呼び、行動を「原因」から考えるのが特徴です。
もう一つは、人間の行動をその人の目的達成のためだとする考え方で「目的論」と呼びます。例えば「学歴がないから(原因)頑張っても認められない」は、「頑張るのがしんどいからそれを避けたいため(目的)、言い訳に低い学歴を持ち出している」と考えるのです。その特徴は、行動をその「目的達成のため」だとする考え方にあります。
原因論ではしばしば過去の出来事を持ち出しますが、過去から抜け出なければ、現在の課題を解決する一歩は踏み出せません。目的論の素晴らしいところは、目的さえはっきりしていれば、その達成に至る手段は無限にあることに気づき、一度失敗してもすぐに立ち直れることです。
解決策を考える場面で大切にしてほしい点は、アドバイスと称して「こうするのが当たり前だ」「当然こうすべきである」のように、教員側の経験や価値観を押し付けないことです。相談者からすると、アドバイスしたり目の覚めるような妙案を与えたりすることができなくても、自分と同じところまで降りてきて、話を聞いてもらえるだけで、ちょっと安心するようです。
「こういうやり方で解決した人もいました」「こんな考え方もありですね」と、あくまでも情報提供にとどめ、その情報も含めた選択肢の中から自己決定し、自力走行する過程を大切にしてあげてほしいものです。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年6月21日号掲載