初任者や転勤1年目など職場に新たに加わった教員との信頼関係を築くために大切なことは何でしょうか。それは「最初から仕事の話をしない」です。
隣で仕事をしている同僚がどんな人か、お互いに知らないまま仕事をしていませんか。そんな希薄な関係では、ある日突然、隣の人がお休みに入っても気が付かないという事態が発生するのです。そんな事態を避けるためにも、「安心して仕事の話ができる土台作り」をしておくことです。
土台作りの方法は至って簡単。プライベートの話をすることで「同僚に関心をもつ」のです。たとえば趣味や特技、休日の過ごし方等。自分との共通点が見つかればお互いの距離がぐっと縮まるでしょうし、共通点が見つからなくても、その人に対する親近感がわいてきます。上手くやっていけるかな?といった不安を抱えた状態と、私に心を開いてくれているなという安心感がある状態。どちらが良好な関係がスムーズに構築できるかは、改めて言うまでもないでしょう。
「信頼」と「尽くす」はどちらが先でしょう。リーダーが信頼するから部下は尽くすのか、部下が尽くすからリーダーは信頼するのでしょうか。
凡庸なリーダーは後者でしょう。部下の忠誠心を見て信頼する。だが尽くしてくれるから信頼するという発想はギブ&テイクです。尽くし方が足りないと思ったら、信頼するのをやめようという結果になります。すると部下はどんな気持ちでしょうか。ギブ&テイクの人間関係では、間違いなく心は離れていきます。
だからリーダーが先に信頼するべきです。信頼されたと感じた時、部下は「この人のためなら信頼に応えよう」とします。だが裏切られるリスクもあるので、二の足を踏むリーダーもいますが、リスクを承知で信頼を寄せるから、部下の心をつかむのです。
学校組織は人材勝負です。リスクを負っても先に部下を信頼できるか、問われるのは部下の忠誠心ではなく、リーダーの「度胸」であり「器」です。
「卵の時に見て、これはいける、これはダメだというのはわからない。人は化けるのです」。これは中邨秀雄・元吉本興業会長の言葉です。人が化けるには3つの要素があると言います。実力4割、運4割、努力2割だと。実力と努力は自分の意志で何とかなりますが運はどうでしょうか。
運とは、人との「縁」や「出会い」のこと。不遇に腐らず、笑顔で、明るく、誠意をもって接していれば、必ず運が向いてくる…そう諭すのがリーダーの愛情です。校長は自分を超える若手教員が育つように貢献してほしいものです。
「成果」とは常に成功することではありません。「成果を出すために失敗を許す」というのは矛盾です。成果を目指す部下と失敗を許す上司との間に齟齬が生じます。その矛盾と齟齬に整合性を持たせるのはリーダーの「人間力」。成果を出せと尻をたたくのは簡単。先頭に立って引っ張るのは容易ではないが出来ます。しかし「思い切ってやれ、責任は私が取る」という一言に、部下は心からの信頼を寄せるのです。
謙虚になって周囲を見渡せば、管理職の周りには「小さな強み」をもつ教員がたくさんいます。周囲に「感謝して」力と知恵を動員して進めば、ことのほか大きな成果をあげることができるのです。「心は見えないが、心遣いは見える。思いは見えないが、思いやりは見える」。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授、教職員メンタルヘルスサポートネットワーク代表、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年4月19日号掲載