「時代の変化に対応した養護教諭の役割を追究する~子供たちがたくましく生きるための学校保健の取組~」を主題に、全国養護教諭連絡協議会(浅野明美会長)は第26回研究協議会をオンラインの動画配信で開催。配信期間は3月1日から同31日まで。主催は全国養護教諭連絡協議会、(公財)日本学校保健会が共催、後援は文部科学省ほか。
主な内容は①会長あいさつ他、②基調講演、③フォーラム、④座談会とまとめ「連携・協働を高め、健康課題解決を目指した取組を通して」などで構成。カテゴリー分けしての配信だった。
主催あいさつの中で浅野会長は、「専門性を発揮しつつ効果的な学校保健活動を推進する養護教諭の役割」を昨年から2年続けて主題設定したことの意義を強調した。基調講演では文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課健康教育調査官の松﨑美枝氏が「学校保健の課題とその対応」と題し、①学校における感染症対策の在り方、②学校におけるアレルギー疾患に対する取組の2点について語った。
シンポジウムでは埼玉大学教育学部の戸部秀之教授がコーディネーターとなり、「瑞星12号」の執筆者から選ばれた小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の養護教諭がシンポジストとなり、左記の実践を報告した。
コーディネーターを務めた埼玉大学教育学部の戸部秀之教授はまとめとして、保健教育の強みは「つねに子供たちの夢の実現に直結していること」であると語る。教員も子供も保護者も社会全体で、この価値観を共有しながら学びを進めていくことが大切だとした。
保健教育を支える肥沃な土壌が大切。今回の発表は様々な連携をもとに、養護教諭が土壌を育みながら進めてきた実践といえる。それは子供たちの自己実現に向けた、確かな土台作りの実践となっている。
今回のシンポジストの発表から学んだ知恵を全国の養護教諭の共有財産としながら「新たな一歩」を探し求めていきたい、と感想を述べた。
同校が家庭とともに取り組んだ「いきいき大作戦」で児童の生活行動が改善された実践を報告。生活習慣アンケートで、毎日朝食を食べる児童は年々減少し、2018年度は78・7%、就寝時刻は3割以上の児童が夜10時以降、夜の歯みがきの定着率も69・3%に留まる結果が明らかに。
そこで学校と家庭が連携し、生活行動と健康の関わりに児童が気付き、自己管理能力を育てることを目指した。
毎月発育を測定し、測定後1週間は学習したことを実践するための期間で「いきいき大作戦」を実施。ワークシートに発育測定時の指導内容に関連した「チャレンジ項目」と、生活習慣を改善するための「生活項目」を設けて、生活チェックを行った。例えばチャレンジ項目が「朝食をしっかり食べる」の場合、どうすれば食べられるかを考え目当てを決める。
生活項目では、特に課題の「就寝時刻」「メディアの視聴時間」「夜の歯みがき」の3つを設定。児童が自ら就寝・起床時間やメディアの視聴時間を設定し、自己管理できるように配慮した。目標達成が困難と思われる児童には、担任や養護教諭が実態に見合った目標となるよう指導。
またPTA総会で養護教諭が、ネットゲームの長時間視聴による健康被害について説明。保護者からは各家庭でのノーメディアの取組など活発な意見交換が行われた。
児童が自ら決めた目標に向かって取り組んだ結果、19年度の朝食は91・7%に向上。夜の歯みがきも「毎日みがく」と回答した児童が75・0%に上昇、家庭での歯みがきの定着など生活習慣の改善が伺えた。就寝時刻は大きな改善が見られなかったため、学校全体でノーメディアの取組を充実させる。
カリキュラム・マネジメント(CM)表を活用した実践を紹介。CM表は養護教諭を中心に保健体育科教員や生徒指導部とともに作成。アンケート調査の結果から「メディアの長時間利用」「就寝時刻が遅い」などの課題が見えた。そこで目標を焦点化・重点化。重点目標に対する生徒の現状と課題を「生活リズム」「いのちの教育」「メディアコントロール」に絞り、生徒の自己管理能力の育成を目指した。
CM表を活用しながら授業内容を再確認、効果的な内容となるように工夫した。例えば中1の保健体育で「生活行動・生活習慣と健康」の授業を行った後、学級活動で担任と養護教諭が「スマホ使用と睡眠・生活リズム」の授業を実施。互いの授業内容を共有し前後の授業に活かせた。さらに、学区内小学校とメディアコントロールデーを実施、保護者・地域との協働につなげた。
結果、生活リズムはプラスに変容。決めた就寝時刻を守ることが出来た生徒は43%から67%に、メディア利用時間を守ることができた生徒は51%から68%に増加した。
スマホ利用について生徒と考え学校医と連消してチェックシートを作成した。保健室での生徒との関わりから、SNSでのやり取りで悩みを抱える生徒が多いことが分かり、生徒自らコントロールする必要性を感じた。スマホとの向き合い方について、生徒が自分ごととして考えるきっかけづくりにポイントを置きチェックシートの作成に取り組んだ。2018年度は近隣校の養護教諭や校内の教員に相談し、アドバイスをもらいながら完成。生徒はシート記入後、養護教諭と一緒にふり返りを行った。スマホ使用で寝る時間が夜11時以降になる生徒は71%、スマホを枕元に置いている生徒は87%もいた。
19年度にパート2を作成する際、脳科学的分野から見たスマホの影響が分かるように改善。学校医に指導・助言を求め作成した。また保健委員の協力で、生徒が記入しやすい項目とした。チェックの結果から、61%の生徒が制服のポケットに入れ、1日のスマホの利用時間は「4時間以上」の生徒が多く、スマホ依存の傾向が見られた。スマホが脳に与える影響を呼び掛けてきたが、生徒の知識を深めるまでは至らず、学校医と連携を深めながら、脳への影響を考える取組を続ける。
保健室からスマホ利用のあり方について情報発信を続ける中で、生徒が自分のこととして向き合い、継続的に考える機会を創出するため、今後も家庭や地域の協力を得ながら取り組んでいく。
前任校は全校生徒10数人程度の小規模校。個別の指導計画作成は全職員参加型の検討会を実施してきた。特に自立活動は「健康の保持」「心理的な安定」「人間関係の形成」など養護教諭の専門性が活かされる内容。検討会では子供1人に対して関わる教職員3~4人のグループを編成。養護教諭は医療機関との連携や心身の健康に関する支援・配慮などが必要な子供のグループに属した。
グループ協議会では実態把握シートを使い、対象児について話し合う。養護教諭からは毎日の健康観察状況や生活習慣に関することなどの実態や情報、気づきなどを提示した。こうして各自が持ち寄った実態でシートを埋めていった。
個別の指導計画に関わる検討会に参加し3つの成果が得られた。
1つ目は実態把握の質が向上した。保健室だけでは知ることが出来ない子供たちの姿を知り、問題の早期発見につながるだけでなく、保健教育に必要な配慮や工夫が学べた。2つ目は養護教諭の視点が学校全体に浸透した。養護教諭の専門性や保健室の役割が明確になり、保健室のセンター的機能が発揮されるようになった。3つ目は全員で子供を育てることができたこと。全職員参加型の検討会は、回数を重ねるごとに教職員が互いの考えや思いを知る重要な機会となった。すべての視点を、自分にはないもう1つの視点として話し合うため、自分の視野も広がった。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年3月15日号掲載