「今年度着任した校長はどんな校長だろう?」。ある中学校でのことです。注目のA校長が新年度、最初の職員会議で挨拶に立ちました。「先生方が生徒のために一生懸命取り組んでくれたことについて、最終的な責任者は校長がとります。思いきり取り組んでください」、「ただし、法令に触れることについては私でも責任を取れません」。教員達には安どの表情が拡がりました。
さらにA校長は、最初に結論を述べるようにしているそうです。「一年後にはこういう学校にしたい」と。この中学校は、前年度までは生徒指導困難校だったので、教員は新年度のスタート時から疲れ切っていました。そういう学校だから、教員が安心して働ける職場にしなければ、学校は良くならないという信念がその校長にはありました。校長の挨拶が終わるや否や、教員間からは期せずして拍手が起こりました。
このように校長の言葉には、教員のメンタルを左右するだけの影響力があるのです。見方を変えれば、「先生方を安心させるような言葉かけ」ができる校長が少なくなってきたのかもしれません。
前任校長がどのようなことを行ってきたか、1年間やってみなければわかりません。いきなり全部変えてしまうと教員が戸惑ってしまいます。原則として昨年度と同じ事をやってもらい、見定めていく中で、長所や短所を改めていくことが大切です。2年目は1年間のつきあいがあるので、変えることに抵抗がなくなります。昨年こういうことがあったから、今年はここを改めましょうという校長からのお願いに「説得力」があるのです。3年目はまとめの年なので、2年間で完成していないところを仕上げると良いでしょう。
4月から5月に、新採教員の病休の第1波が訪れます。ある校長は、都道府県で作成している新採教員用の「リーフレット」などを活用し、新年度早々から他の教員達に新採教員への「援助」や「見守り」をお願いしています。新採教員への期待は、「前任校で5年間、いったい何をやってきたのか」と言われないように指導したい。2校目の赴任先で中堅教員として「使える」、あわよくば「どこかで選んでもらえる」人材にしたいと述べていました。
ある自治体では校長の年齢層の偏りが危惧されています。50代後半の校長のその下がいきなり40代後半から50代前半の校長になってしまうそうです。「あと何年、校長をやるつもりですか?」と40代後半の校長に聞くと、一様に眉をひそめます。若手校長に対する心配な点はいくつかありますが、若手校長の下で働く教頭の倍率が低くなっているのが気がかりです。経験の少ない校長に仕える教頭がどういう人物かによって、その校長がどれだけ苦労するかが違ってきます。
また、教育委員会等の教育行政職に長く就いていた人が、教頭を経験しないで校長になった場合には注意が必要です。なぜなら、行政感覚で校長に就いて失敗する例が目立っているからです。上司の言う事に対して「はい」「わかりました」と誰もが素直に従ってくれた「縦割りのしがらみ」を、そのまま学校現場に持ち込んだため、教職員から「総スカン」を浴びた管理職に出会うことがあります。
その予防のため、1年でもいいので教頭職を経験して、学校の様々な仕事の全体像を経験してから校長に登用しても遅くはないと思われますが、いかがでしょうか?
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授、教職員メンタルヘルスサポートネットワーク代表、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年3月15日号掲載