この冬は、日本人が初めて本格的に新型コロナウイルスと対峙する冬となっています。本稿を書いている1月現在でも、すでに新型コロナウイルスの変異株ウイルスの出現と、その国内侵入、および感染が問題となっています。
日本国内では、英国型、南アフリカ型、ブラジル型の新型コロナウイルスに数十人の感染が確認されています。小児でも英国型の変異株ウイルスに感染していた事例が報告されており、国は引き続き監視体制を強化していくとしています。
そもそもウイルスはアトランダムに遺伝子のエラーを起こし、その結果として、さまざまなウイルスが出現します。体内では増殖能力の高いウイルスが優位となって生き残り、体外では感染伝播力が強いウイルスが広がっていきます。
この変異株ウイルスも感染伝播力が強くなっており、さらに小児や若い人でも感染・発症しやすいとされています。本稿が掲載されている頃には、国内でもこの変異株ウイルスが主たる流行ウイルスとなっているかもしれません。
変異株ウイルスではあっても、予防対策は同じです。換気を徹底し、密を避け、手洗いを励行し、マスクを着用することをより注意深く続けることしかありません。
新型コロナウイルスの流行しやすい冬季で変異株ウイルスが国内で感染伝播していることから、危惧されているのは感染者の爆発的な増加と、それに伴う医療のひっ迫・崩壊です。すでに入院が必要とされる人でも自宅療養を余儀なくされるケースや入院調整中となっている人が、増加の一途をたどっています。
ここで注意すべきは、自覚しにくい「サイレント」な低酸素症が新型コロナウイルス感染症では起こることです。人の血中酸素濃度は90％台後半ですが、80％台に低下すると生命の危機があるとされています。
新型コロナウイルスでは、この低酸素症が気付かないままに徐々に進行し、苦しいと感じたときには病態が進行してしまっている「ハッピー低酸素症」が指摘されています。ハッピーとは不謹慎な表現ですが、「自覚症状が出にくい」という意味です。
肺でのガス交換ができ難くなると、酸素が充分に取り込めなくなるため、二酸化炭素がたまると肺が酸性化します。酸性化した環境において、新型コロナウイルスを含むコロナウイルスは増殖しやすくなる性質があり、感染者の病態が急速に悪化することになります。
自宅療養は医師の目が届かないため、気付いたときには重症化している場合や、様態の急変などが深刻になっています。感染者が激増すると入院でき難くなり、このような事例が増えてしまうことになるのです。
岡田晴恵（白鷗大学教育学部教授）
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年2月15日号掲載
