学校給食の現場では、コロナ禍に対応するさまざまな取組が行われています。冷凍食品を上手に活用することで献立を豊かにしながら衛生的に、調理や配膳を簡略化したり、不足しがちな栄養素を補うこともできます。(公社)全国学校栄養士協議会・長島美保子会長に聞きました。
今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響について触れずにはいられません。
平年でも夏休み等の長期休業中には、学校給食関係者は子供たちの食生活に気配りをするものですが、今回は長いところでは約3か月間の休校や、簡易給食が続いた学校もありました。
保護者の負担も大きかったことでしょう。長期間、子供たちは出来合いの惣菜やインスタントのものを食べる機会が増えたり、自由におやつを食べることもあったでしょう。そうした食生活ではどうしても野菜や果物が足りず、栄養の偏りが出てしまい、塩分や糖分、炭水化物が多くなりがちです。加えて外出があまりできず、運動不足にもなった。子供たちの健康について、学校関係者も保護者も不安を抱えていました。
休校期間中、学校給食関係者は、直接の食の指導ができなくても、家庭での食生活の支援や指導をさまざまな形で行っていました。学校のHPからお便りを配信し、コンビニの弁当や惣菜を選ぶ時のポイントや、家庭でも作りやすく給食をアレンジしたレシピを紹介したり、調理の動画を配信していました。
そして学校再開後、「新しい生活様式」は学校給食にも求められています。調理の際は複雑な工程を省くことが望ましく、冷凍食品を上手に活用することで対応できることがあります。
簡易給食を提供していたある学校では、在庫してあった冷凍の揚げ物を活用することで、牛乳とパンに1~2品追加することができたという事例も実際にありました。
コロッケやハンバーグ、五目卵焼きなど、調理済みの冷凍食品はそのまま揚げたり焼いたり煮たりすることができますし、野菜は下処理済みですから、衛生的かつ調理時間の短縮につなげることが可能です。
行事食の手作りも難しくなっている状況ですが、デザート類も冷凍食品で多種多様なものがあります。そうしたものも活用することで、食を通じて季節の行事を子供たちに伝えることもできるのではないでしょうか。
衛生管理ももちろん重要です。2009年度から施行されている文部科学省の「学校給食衛生管理基準」をもう一度振り返り、徹底して食中毒を予防していくことが重要です。
これからはインフルエンザが流行る季節にもなります。子供たち自身の免疫力を高める必要性がますます高まります。自己免疫力はどこからくるのかというと、やはり栄養の力です。
例えば食べた肉を栄養として作用させるには、野菜類のビタミンのサポートが必要であるように、さまざまな食材を組み合わせ、バランスよくしっかり食べることが何よりも大切です。
その上で、学校給食と家庭での食事を比較した場合、家庭で摂取しづらい栄養素として「カルシウム」「ビタミン」「食物繊維」が挙げられます。
学校給食では牛乳が毎日提供され、1日に必要なカルシウムの摂取量の半分をまかなっています。学校給食のある日と、給食のない休日を比較すると、ない日はカルシウム不足の児童が約7割いるという調査結果もあります。
またビタミンや食物繊維を多く含む野菜や果物は、調理に手間がかかることもあってなかなか摂れません。冷凍食品などを活用して手間を省きつつ、意識していつものメニューに食材をプラスするといった工夫が大切です。
一方で保護者からは、休校期間中はさまざまな具の入った冷凍ピラフなどがとても役に立った、という声もありました。
冷凍食品を調理に活かし、豊かな一品に仕上げることは、学校給食でも行っています。冷凍ハンバーグを使うことで調理時間を短くし、確保できた時間で地場の果物でソースを作る、といった、リッチなメニュー作りに冷凍食品が活用されています。調理しやすい形で提供され、価格や栄養価も季節や天候に左右されませんから、豊かな献立を作るために、学校給食の現場でも活用度は高いのです。
肉や魚、魚介、豆、野菜、調理済みのものといった幅広い食材が揃う冷凍食品は、手抜きでも安易なことでもありません。家庭においても、栄養バランスをとり、さらに幅広いメニューにするために、上手に活用して欲しいと思います。
ただ調理方法については、家庭ではまだ浸透していない部分もあるようです。冷凍食品には生鮮とは異なる、美味しく調理するためのコツがあります。解凍せずに冷凍のまま調理したほうが美味しいものも多い。葉物野菜は凍ったまま炒める、芋類は水から煮るとデンプンが溶けてドロドロになってしまうので、煮汁を煮立ててから入れる、といったことです。学校給食では各素材に適した手順で調理していますので、家庭にも活用方法についてアドバイスできればと思います。
学校給食が目指すのは、家庭料理とかけ離れた献立ではなく、家庭のお手本となるものです。学校給食のさまざまな取組を家庭でも参考にして欲しいと思いますし、積極的に情報発信していきたい。
コロナ禍では全世界の動きが麻痺しました。これからも子供たちは予測できない時代を生き、さまざまなことを経験するでしょう。それに耐える力を持ち、健康な体を作ることは、ますます重要になると考えています。
学校給食が全国的に普及し、給食に適した冷凍魚のフィレや冷凍コロッケ、スチック類などが採用され、その後学校給食は急速に拡大。これが業務用冷凍食品の基礎となりました。
「磯の香フライ」「アップルシャーベット」など、数々の学校給食のヒット商品が誕生しています。
1964年、国際的なスポーツ大会の開催国となった日本は、世界各地から集まるおよそ7000人の選手団に対し食事を提供することになりました。大会期間中は延べ60万食にのぼる選手向けの食事の食材調達が必要となったのです。
帝国ホテルの村上信夫シェフは、大会までに膨大な食材を確保し、市場における価格高騰を抑え、食堂を効率よく運用できる冷凍食品を採用。日本冷蔵(株)(現・ニチレイフーズ)の協力を得て研究し、味を損ねることなく野菜を保存することに成功。開催前年の試食会でも高評価を得ました。
そして大会が開催され、各国別の料理など、多彩なメニューの提供を可能にした冷凍食品が大活躍。世界の選手に絶賛されました。
これをきっかけに、ホテルやレストランでも冷凍食品が広く利用されるようになり、市場が急速に拡大しました。
(一社)日本冷凍食品協会
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教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年10月19日号掲載