新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により休校していた学校が全国的に再開していることを受け、埼玉大学の戸部秀之教授に、養護教諭へのアドバイスを聞いた。学校再開後の児童生徒をサポートする上で大切なのは、養護教諭が中心となって学校と家庭の両方で感染症予防を促すことだ。
今後は学校を通して感染が再度拡大する可能性もあるので、それを抑えていくことが重要です。教職員が連携し、学校全体でしっかり対応できる体制を整える必要があります。
学校での健康観察や体調不良者への対応、家庭との連携、消毒などの3密環境対策、健康相談や保健指導などが必要です。前例のない事態なので、校内で感染症予防の中心的な役割を担ってきた養護教諭の知識や経験が参考になります。養護教諭には専門性を発揮してもらい、感染拡大防止と教育活動の維持のために中心的な役割を果たしてもらいたいです。
専門的なことは厚生労働省HPから入手できます。また、文部科学省HPには「学校における新型ウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」などが掲載されています。国の方針をもとに各教育委員会が地域に応じた方針を学校に示すことが多いものの、具体的な対策については各学校に一任する例もあります。
そのため養護教諭同士では、主にインターネット上で最新情報を収集しながら、SNSなどで相談や情報交換をしています。悩みやアイディアを出し合いながら試行錯誤や工夫につなげ、その情報を養護教諭間で共有することが理想です。
家庭との連携が重要です。家庭での子供の感染予防をさらに意識してもらう必要があります。
子供が不顕性感染の状態で登校し、校内で感染拡大し家庭へ感染する流れを抑制するため、家庭では検温と健康観察を行なってもらい、症状がある場合には家庭で待機してもらいます。「軽症状なら登校させてもいいのでは」と考える家庭にも、感染拡大を抑制する重要性を説明します。
一斉休校は急だったため、感染予防行動の意義を指導しきれなかった学校もあります。感染者の発生を他人事と考えていたり、手洗いの効果を十分に理解していない子供もいるので、しっかりと予防行動を実行できるよう、改めて念入りに指導しましょう。
長期の休業で生活習慣が乱れ、運動不足も加わり、体力的に学校の日課についていけなくなっている子供もいるかもしれません。これは体調不良やけがの発生、熱中症などにつながる可能性もあり、慎重なスタートが求められています。経済面や学習、食生活など、あらゆる面で家庭の格差が顕在化する可能性もあります。子供の健康や発達、精神面には特に注意してください。
養護教諭は学校で体調不良の子供に対応するため、教職員の中では特に濃厚接触の可能性が高くなります。1校あたり1~2人のみの養護教諭が自宅待機になった際の影響は甚大です。学校としてリスクの分散を考えるとともに、ゴーグルやフェイスシールドなどの使用を検討し、共通理解を図りましょう。
私が3月に実施した調査では、「ゲームやインターネットなどの過剰使用」が養護教諭の懸念として最多で、83%が「強い懸念」を示しました。次いで、睡眠や食生活などの「生活習慣の悪化」(75%)、「運動不足による影響」(67%)です。
WHOでゲーム依存が病気として認定されたこともあり、①ゲーム・ネット過剰使用、②生活習慣の悪化(昼夜逆転)、③再開時の不登校の増加、の流れを心配しています。親からの強制的なゲームの制限は有効ではないといわれています。親子で話し合ってルール化を図り、生活時間帯を学校に合わせた修正を促しましょう。
運動不足の解消も大切です。屋外で日光にあたり、散歩や運動を楽しむことが望ましいですが、環境的に難しい場合は、屋内で楽しめる運動の動画を見ながら家族で実施するなどの工夫をしましょう。
必ずしも体力トレーニングである必要はなく、おしゃべりができる程度の運動強度で、息が弾むリズムカルな運動で体を慣らしていくと良いです。
運動は睡眠習慣にも良く、ストレス発散によるメンタルの改善にも有効です。楽しい運動の時間を家庭内で共有するので、良好な親子関係にもつながります。一方、被虐待の可能性のある家庭には定期的に連絡を取り、子供とのコミュニケーションを欠かさず見守る必要があります。
学校行事が中止となり、友人とも会えない状況で、心の折り合いがつかない子供もいます。部活動の大会中止で目標を失った子もいます。苦境を乗り越え、学校再開時に友人と会い、共に学び合う喜びを実感できる機会となるよう、学校全体で子供の心を支えてもらいたいです。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年6月15日号掲載