「マーズ(MARS)」と呼ばれる「中東呼吸器症候群」は、2012年に患者が初めて確認された新興感染症です。学校保健安全法では第一種の感染症で、マーズコロナウイルスの感染によって起こります。現在、大きな問題となっている新型肺炎の「COVID(コビッド)-19」とは、同じコロナウイルスの仲間ということになります。
主にサウジアラビアやアラブ首長国連邦、オマーンやイエメンなどのアラビア半島諸国で患者が報告されています。2015年には中東地域で感染した人が韓国で帰国後に発症、医療機関で院内感染が拡大して大きな問題となりました。
2020年3月現在、日本では幸い、マーズの発生報告はありません。
潜伏期間は2~14日で、発熱に咳、息切れ、下痢などの消化器症状を伴うこともあります。不顕性感染や軽症の人もいますが、中高年齢層以上の人や基礎疾患のある人で急速に重症化し、肺炎を発症します。主に家族や院内感染で人から人への感染が報告されていますが、その伝播(でんぱ)効率は悪く、COVID-19のように、人から人へと持続した感染が次々に起こっている訳ではありません。
しかし今後、このマーズコロナウイルスが変異を起こし、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)やCOVID-19の新型肺炎のように大規模な流行を起こす可能性も否定できないため、日本国家も注視しながら警戒を続けています。
患者から分離されたウイルスと同じウイルスが、中東のヒトコブラクダから分離されたことから、「ヒトコブラクダから人への感染があった」と考えられています。(日本にいるヒトコブラクダは、マーズウイルスを持っていませんので、安心してください。)
韓国の院内感染では、飛沫より小さいウイルスのエアロゾルが室内空間に充満し、それが広がることで同じ病棟内に多数の患者が発生したと示唆されています。
インフルエンザやこれらコロナウイルスをはじめとして、咳やくしゃみなどで病原体が飛び散る感染症では、空間中のウイルス濃度の低減を目指して、教室内の換気を十分に心がけることが大切です。
また、接触感染の防止のため、人がよく触れるドアノブなどの消毒や手洗いの励行も行ってください。
岡田晴恵(白鷗大学教育学部教授)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年3月16日号掲載