これまでの教育風土の特徴は、①改革よりも前例踏襲、②挑戦よりもまず会議、③専門性よりも共通理解などの考え方が主流で、できない理由、やらない理由の羅列に終始しがちでした(原因論)。しかし、保護者の学校に対する見方・とらえ方が多様性を帯びる中で、学校組織も「目指す目的に向かって、試行錯誤する学校組織をいかに生み出すか」(目的論)に焦点を当てた実践に移っていかなければ、明るい未来はないと感じています。
今回から「勇気づけ」・「共同体感覚」等で知られるアドラー心理学を用いて、若手教員の育成や働きやすい職場作りに素晴らしい実績をあげた小学校(以後、S小学校)の実践をご紹介したいと思います。
1.「勇気づけ」とは⇒評価もせず、また相手を支配したいといった下心も持たずに、今の自分の気持ちを伝えること。
例えば「すごい」、「優秀だ」…このような言葉では、相手に承認欲求を抱かせる危険もあり、褒められないと心が挫けてしまう人に育つかもしれません。一方、「ありがとう」「うれしい」のように、「横」の繋がりの関係に立った「感謝」の気持ちを伝えるだけで、人は貢献感を得て、「勇気」がわき始めるのです。
2.オープンエンドの組織イメージ(管理型マネジメントでは、主体性や自主性を育てることができない)⇒今までピラミッド型の学校組織だったものを、逆三角形型の底辺に校長がいる形に変えたのです。つまり一定の範囲の中で教員各々が自らの発想を活かして企画運営していく組織へと変貌していったのです。
ピラミッド型組織の欠点は、底辺が決まっているのでそれ以上の拡がり(発展)がありません。一方、逆三角形型の組織だと可能性は無限大です。管理職は常に上から指示管理するという立場ではなく、下から、「頑張れ、いいぞ、ありがとう」と応援する立場をとるのです。
3.「勇気づけ」を学校運営に活用する。
①できなかったことを「経験」に。初任者は、出来なかったことを「失敗」と受け止めがちです。しかし、できなかったことを「経験」と受け止められるようになると次の成長につながります(物事を多面的にみる視点の醸成)。初任者には「失敗(経験)する権利」があるのです。
「失敗は、あなたがそれを正すのを拒むまで失敗とはならない」
②管理職は「感謝」を伝える(アイメッセージ)。「縦」の人間関係の問題点は、「下」は完全に「上」(相手)の尺度に立って行動している点です。「上」である管理職から「下」の自分が認められたいという思いで行動しています。
一方、アドラー心理学の説く「横」の人間関係では、経験や能力の差は認めるものの、尊厳レベルの違いは介在しません。上司と部下の間でも、まずは「仲間であること」が前提となります。そのうえで経験や実績の差で上司が部下を教育することはあっても、部下に服従を強要したりはしないのです。
③論理的結末を体験させる。例えば、管理職の指示で動いたケースで失敗した場合、「管理職の指示が悪い」となりがちですが、自らの判断で動いて失敗した場合は「自分の計画に課題があった」となり、成長のチャンスです。管理職がここまで教えたら、あとは教師自身で前に進ませ、失敗した原因は何だろうと立ち止まり、失敗を次のエネルギーに活かすような取り組みを応援します。
今回は管理職から見た初任者に対する援助を中心に述べましたが、次回は初任者から見た働き方の留意点について述べてみたいと思います。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部教職課程客員教授、教職員メンタルサポートネットワーク協会代表、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年3月16日号掲載