近年の多発する自然災害、子供が犠牲となる犯罪や教育活動中の事故の増加。学校安全を巡る課題は多く、学校には一層の適切な対処が求められる。そこには「チーム学校」の考え方に基づいて学校、地域・保護者の「協働」による取組が必要と語るのは、学校安全教育研究所代表の戸田芳雄氏。学校保健・安全研究大会の講師を務める戸田氏から、学校安全におけるセーフティプロモーション等について聞いた。
「多くの事故は、その原因を分析し、学校、家庭、地域が協働し的確に対策を講じることで、未然に防ぐことができるという考え方や取組。これがセーフティプロモーションの考え方」
「熱しやすく冷めやすい一過性の情緒的な対応では、繰り返される事故を防ぐことはできない。例えば、校庭の遊具で事故が起こると、すぐ管理者責任を問われ、遊具が撤去されるが、すぐ忘れられ、しばらくするとまた同様の事故が起きる。それではいけない。セーフティプロモーションは、もっと前向き、積極的に、過去の事例やヒヤリハット体験に学び、同じ事故が起きないように、“チーム学校”の体制で皆が力を合わせることが求められる」
「安全教育を含む学校教育活動は元々学校だけでできるものではないという前提で、平成27年12月の『チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について』中教審答申で“チーム学校”の概念が打ち出されている。学校の教職員はもちろん安全教育・管理の中心だが、それでは不十分である。保護者、地域の方々、関係機関・専門家も含めて力を合わせないと、今の学校や地域の子供の安全を巡る厳しい状況は改善できない。だからみんなで力を合わせることが重要になっている」
「『学校安全の推進に関する計画』(第2次)は29年3月閣議決定したが、その中で安全教育に関する教員の指導・研修が大切であり、学校安全に関する資質・能力を身につけるべきと述べられている。今年度大学入学の教員養成課程を履修する学生には、安全に関わる内容を授業の中で扱うよう義務化された」
「学校安全の指導徹底には、教員養成段階からの指導、現職研修の充実、そして事故等の調査と結果に基づく情報の普及がポイントとなる。日本スポーツ振興センター(JSC)は安全支援事業を展開し、『学校安全Web』で情報を発信する他、「体育・スポーツ活動での事故防止対策推進事業」を実施。26年度より普及のためのセミナーを開催し、令和元年度で全国の都道府県を一巡する。そこには管理職、保健体育、養護教諭だけでなく、スポーツの指導者や学生なども参加して事故防止について検討している。また教職員や指導者、中高生等も閲覧できる教材DVDも公表している」
「学校、地域ぐるみでセーフティプロモーションの取組を進めるプロセスの中で重要なことは、教育活動全体の中で、児童生徒等に自他の生命や安全と、その基盤となる人格や人権を尊重する心を育てるという考え。これは文科省『生きる力をはぐくむ学校での安全教育』の初版(16年12月)から盛り込まれ、以後の改訂でも重視されている考え方である」
「安全であることを前提に日本はこれまで科学を発展させ、国民の生活を豊かにしてきたが、いつの間にか安全が後回しにされてきたのではないかと思わざるを得ない。安全は単に事故防止のためだけではなく、その取組の過程で自他の生命や安全を大切にする心を育て、人格・人権を尊重すること、つまり『安全文化の創造』が重要だ」
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年11月18日号掲載