今年も台風の影響で、豪雨による甚大な被害が全国各地で発生した。被災時は、さまざまな感染症に注意する必要がある。災害時に実践するべき感染症対策を、白鷗大学教育学部の岡田晴恵特任教授に聞いた。
冬季の避難所や学校での集団感染として報告数が多い「インフルエンザ」は、重い合併症を引き起こすこともある。呼吸が速い・息が苦しい・胸部が痛むなどの症状がある場合は、肺炎の可能性がある。反応がおかしい・ぼうっとしている・飛び出したり大声で叫ぶなどの異常な行動・言動が見られる場合は、インフルエンザ脳症の可能性がある。
また、インフルエンザでは、使用を避けなければならない鎮痛解熱剤がある。アスピリンは児童生徒にライ症候群という重い脳症を引き起こすことがある。他にも、消炎鎮痛解熱剤であるジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸、サリチル酸ナトリウムなども服用を避ける。
昨年にインフルエンザの新薬として登場したゾフルーザは、12歳未満の子供を対象に実施した臨床試験において23・4%のインフルエンザウイルス変異が見られたことから、「12歳未満の子供への投与は慎重にするべき」という提言が日本感染症学会からまとめられている。
同じく冬季に流行しやすい「ノロウイルス感染症(感染性胃腸炎)」は、数十個のウイルス数でも感染が成立する。掃除機の排気やトイレのふたを閉めずに水を流すことで空気中に舞い上がって感染することもあるため、嘔吐物はしっかり掃除する。消毒用アルコールではなく、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)で消毒する。
ムンプスウイルスの感染によって発症し、耳下腺などの唾液腺が腫れて痛みと発熱が伴う「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)」は、感染者からのくしゃみなど、飛沫によって感染する。完治までに7~10日を要することもあり、学校や避難所での集団生活では、流行につながりやすい。任意だが、ワクチンがある。
「水痘(水ぼうそう)」も、2014年からワクチンが定期接種化されたが、集団生活下では流行しやすい。3歳以上でも任意でワクチンを受けられるので、未接種で感染経験のない教職員にも合計2回のワクチン接種がお勧めだ。
昨年から始まった「風疹」の全国流行は、現在も首都圏を中心に報告が続いている。予防接種歴が不明瞭な30~50代の男性の発症が多い。主にワクチン未接種の人へと伝染するリスクがあるため、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は、厚生労働省が配布しているクーポン券を使い、抗体検査とワクチン接種を無料で受けておくことが推奨される。
出血などで感染することが分かってきている「B型肝炎」も、集団生活では注意が必要だ。血液・体液は、素手で触らないようにする。
露出した皮膚が土壌や環境水に接触すると、レプトスピラ菌に感染し、「レプトスピラ症」を発症することがある。発熱・頭痛・筋肉痛などが主症状だが、重症化すると、黄疸、腎臓の障害や出血、意識障害なども起こる。レプトスピラ菌はネズミ類が保有しており、尿と共に体外へ排出され、土壌や環境水の中で増殖するため、災害時に感染者が発生する。浸水してきた土砂などに直接接触することを避けるため、屋外での作業では、長靴やゴム手袋など、肌を露出しない服装が大切だ。
約10年でワクチンの効果が切れる「破傷風」にも注意する。特に1968年以前に生まれた教職員は、破傷風を含むワクチンを小児期に受けていないため、任意で受けられる破傷風トキソイドの接種が推奨される。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年11月18日号掲載