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学校施設

学校施設 長寿命化・防災機能強化を<特別講演>

2019年11月5日

建築後25年以上を経過した建物が約7割を占めるなど、公立小中学校の老朽化は深刻だ。学校施設は災害時には地域の避難所となるため、トイレや電気の確保など防災対策も求められる。そうした中、文部科学省は2019文教施設セミナー「未来につながる学校づくりセミナー-学校施設における長寿命化改修と防災対策等-」を10月11日・大阪、10月17日・東京で開催。文教施設施策の説明や先進事例などを紹介した。

リファインで長寿命化

築約100年の木造家屋や築40年の体育館をリファイニングした青木茂建築工房の青木茂代表取締役が事例を報告した。

リフォームは部屋の一部を改修すること、リノベーションは大規模な改修、リファイニングは老朽化した建物を再利用しながら耐震性を考慮し、新築同様の建物にすることを意味する。

福岡県八女市立福島中学校の築40年を経過する体育館は、屋内側のコンクリートの状態が良くないことが分かった。今後30年間で風化し、さらに細くなると仮定。そこでリファイニングとして柱を4本の鉄骨で補うことで長寿命化につなげ、八女の持つ和の雰囲気を活かし大きな行灯をイメージしてデザインした。

廃校となった大分県佐伯市の旧河内小学校体育館を、佐伯市蒲江海の資料館「時間の船」にリファインした際は、体育館の建物自体を外側からすっぽりと覆い、潮風から保護することで施設の長寿命化を図った。

山口県防府市の松崎幼稚園 遊戯室は、築約100年の木造家屋を遊戯室兼ランチルームとして再生。旧来の蔵を残したいという要望から、瓦や不要な土壁を除去し、建物の軽量化を図ることで実現した。「歴史に囲まれた環境で学ぶことは貴重な体験になる」と語る。

【行政説明】
公立学校施設の長寿命化計画を策定

文科省は2020年度までに、学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)の策定を各教育委員会に求めている。2019年4月時点での公立学校の個別施設計画の策定率は15%だ。そのため学校の建て替えに向けて、中長期的な予算配分戦略が望まれる。

2017年3月、文科省は「学校施設の長寿命化計画策定に係る解説書」を策定。計画策定のために必要な建物情報、コスト縮減のための先進事例などを掲載した。計画策定の際は、学校施設台帳を参考に建物の基本台帳を表計算ソフトに入力。「改修」と「長寿命」に区分し、長寿命化改修に適さない建物を明確にする。続いて屋根・屋上、外壁、内部仕上げ、電気設備、機械設備をAからDの4段階で評価。これにより長寿命化にかかる費用やコスト削減率が割り出される。

長寿命化改修には多額の費用がかかる。解説書ではコスト削減の取組事例として、学校施設と他の機能を複合化したケースや、学校図書館を地域と共用化したケースなどを紹介している。

学校施設の木材活用等を推進

学校施設への木材活用は、柔らかで温かみのある感触や優れた調湿効果により、快適な学習環境が形成される。また、鉄やアルミニウムと比べて省エネ材料であり、温暖化抑制も期待される。

1988年までは学校施設への木材利用は減少傾向にあったが、「木材利用の促進に関する通知」が発出されてからは増加に転じた。2017年度は新しく建築された学校の約67%で木材が使用されている。

文科省では2019年3月、「木の学校づくり-その構想からメンテナンスまで-」を20年ぶりに改訂。木材を活用した学校を計画するにあたり、構想、計画、設計などを分かりやすく整理した。

改正建築基準法の施行に伴い、木造3階建て校舎が建てやすくなったことから、2016年には「木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引-」を作成。法改正の主なポイントをイラストで紹介している。

学校建築に使用され、肺がんや中脾腫などの恐れがあるアスベストや露出保湿材・耐火被覆材は797機関、煙突用断熱材は1121機関が調査未完了。早期に調査を完了することが望まれる。措置済みであっても経年劣化を考慮し、定期的な点検・維持管理が重要だ。

学校の蛍光灯などに使用されていたPCBについては2001年度までに交換するよう対策を講じてきた。2017年には島根県の小学校で蛍光灯のPCB使用安定器から液漏れする事故が発生。学校の設置者には使用状況を再確認し、使用している場合は速やかに交換するよう依頼した。

国立大学法人等施設約3割が要改修

経年25年以上で改修を必要とする国立大学等施設は全体の約3割となり、老朽化改善整備に遅れが生じている。また、経年30年以上の排水管やガス管などのライフラインを使用している国立大学は約7割で事故の発生が懸念される。

文科省では2016年度から2020年度まで「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画」を策定。質の高い、安全な教育環境の確保を目指している。

施設の老朽化が進むと、教育研究活動に重大な支障が生じる恐れがある。そこで国立大学は主体的に施設整備・管理を行う必要がある。インフラ長寿命化計画を策定済みの国立大学は30大学、2019年度中に策定予定は50大学で全体の9割となる。

こうした状況を踏まえ、文科省は検討会を立ち上げ、2019年3月に報告書「国立大学法人等施設の長寿命化に向けて」を取りまとめた。国立大学は報告書を参考に、個別施設計画の早期策定や施設マネジメントの推進が求められる。

長寿命化には多額の費用がかかるため、大学の理念、施設の現状、財政状況などから長期的に見通しを立てる必要がある。その上で、施設の総量の最適化を図り、必要性の高いところから重点的に整備を進めていく。

改修では施設だけでなくライフラインの修繕・改修も必要。さらに、一定期間に予算が集中しないようコストの平準化や実現を見通した予算見込額の設定なども考える必要がある。

【鹿児島大学】
今後30年間の施設整備計画を策定

今後30年間で施設規模10%減
キャンパス内のネーミングライツで維持管理費を確保していく

キャンパス内のネーミングライツで維持管理費を確保していく

鹿児島大学は築25年以上の未改修施設が全体の36%、築50年以上の建物も20%となる。全体の2割が法廷耐用年数の2倍を超過し、施設の老朽化が進んでいる。特に受水槽や中央監視制御などの老朽化が目立ち、故障や事故が発生した場合、教育研究活動に支障を来す恐れがある。

鹿児島大学の個別施設計画の特徴は、30年後に施設規模を10%削減することを前提に、増収策を講じながら、ライフサイクルの見直しなど様々な視点で必要額の検討を行ったことにある。

インフラ長寿命計画(個別施設計画)作成にあたり、建物カルテで必要な修繕費を算出。実際に建物を見て、手で触れながら、劣化度をA・B・Cで評価しながら診断を進めた。

18歳以上の人口減少が予想されることから、キャンパスマスタープランに30年後は施設規模を10%削減することを明記。これに則り、今後30年間の施設整備計画を策定。維持管理費、光熱水費併せて約1・8億円の削減が見込まれる。

2019年3月に個別施設計画を策定。第1段階は築後60年で改築する従来型、第2段階は築後100年で改築する長寿命型、第3段階はどちらでもない新たな追加対応策の3つのフローで検討された。

今後は、キャンパス内に広告掲載するネーミングライツで施設の維持管理費を確保。これによりリクルート活動の促進や産学連携も期待できる。

【前橋市】
学校の防災機能を強化
太陽光発電20校、防災無線60校

短期・長期の対応を想定
全校が避難所指定されており、ソフト面、ハード面で強化した

全校が避難所指定されており、ソフト面、ハード面で強化した

前橋市は、全68小中学校が指定避難所となっており、すべての小中学校の校舎や体育館の耐震安全性は確保されている。1校あたりの最大避難者数は700人程度。

学校施設の改築・改修にあわせて避難所としての機能も強化。太陽光発電を20校、マンホールトイレを5校に設置。全小中学校に整備された学校専用WiFiは災害時には無料開放し、体育館で使用でき、防災行政無線は60校に設置している。

また、すべての小中学校に防災倉庫を設置。倉庫内には食料や水、寝具、発電機、トイレ・テントセットなど各校に700人分が備蓄されている。

2017年に新築工事を行った桃井小学校では、災害時に物資の出し入れを想定して、体育館ステージ裏を開放できるようにした。また、体育館と防災倉庫を隣接して設置。屋内のトイレをバリアフリー化したほか、屋外トイレ隣にはマンホールトイレを設置した。

前橋市では開設期間が1~2日以内となる短期避難所と、3日以上となる長期避難所に分けて対応を想定している。短期避難所の場合は備蓄品の配布などは簡易対応となる。長期避難所では初動は市が中心となるが、発災後3日目程度を目安に委員会を設置し、地域住民が対応にあたる。

学校が避難所となった場合、円滑に運営するため学校単位でのマニュアルづくりを行った。2017年から2018年の2か年で避難所配置図を全小中学校に整備。高齢者や障害者のためのスペースを確保するとともに、学校の再開に向けて普通教室の利用制限などが記載されている。

現在、学校が避難所となった場合を想定して避難訓練を行うなど、教員や地域を巻き込んだ事業が実施されている。2019年10月の台風19号では13校が避難所として開放されたが備蓄品の配布など円滑に運営されることが実証された。

【行政説明】
学校施設の約9割が避難所に指定

公立小中学校の耐震化率は2019年1月時点で99・2%。着実に進んでいるが、耐震性のない建物は894棟も残されている。吊り天井などの落下防止対策は98・9%の学校で実施。対策が未実施の屋内運動場は368棟ある。

2016年4月の熊本地震の際は、学校施設の整備について7月に緊急提言が出された。それによると学校施設は耐震化の成果が見られたが、落下防止対策が行われていない体育館などの吊り天井は脱落などの被害が発生。そのため撤去を中心とした対策を引き続き推進する。また、吊り天井以外の非構造部材は古い工法のものが落下・破損するなどの被害が目立った。文科省が作成した手引などを活用して、非構造部材の点検を、専門的な見地から行う必要がある。

2018年6月の大阪府北部を震源とする地震では、学校のブロック塀が倒壊し、児童が亡くなる事故が発生した。2018年8月の調査で安全性に問題があるブロック塀を有する学校は1万2652校だったのが、2019年4月の調査では、1893校にまで減少。引き続き安全性に問題があるブロック塀は、早急に安全対策を完了するよう求めている。

公立学校の約9割が災害時には地域の避難所として利用される。2014年3月に作成された「災害に強い学校施設の在り方について」では、災害発生から避難所解消までの期間を4段階に区分し、避難所として必要な機能をまとめた。

災害が発生してからでは遅く、あらかじめ避難所としての機能を学校に備えておくことが必要とされる。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年11月4日号掲載

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