「梅毒」は梅毒トレポネーマという細菌による性感染症で、感染者の皮膚や粘膜と直接接触することで感染します。
病名は症状にみられる赤い発疹が、ヤマモモの実に似ていることに由来します。性風俗と関わって感染が拡大したことから、昔は「花柳病」と呼ばれ、感染すると廃人になると恐れられました。
戦後の抗生物質であるペニシリンの普及で、適切に治療すれば治る病気となり、患者は激減しました。しかし近年、日本で感染者が激増。2018年には約7000人の梅毒患者が報告され、10年前の10倍となっています。男性では20~40代の幅広い年齢層で、女性は20代前半で感染者の報告が多いです。妊娠している女性が梅毒に感染していると、胎児にも感染がおよび、早産・死産や新生児死亡、奇形などの先天梅毒が起こることがあるので、若い女性の感染は非常に心配です。
梅毒は慢性感染となって重症化するので、早期発見・早期治療開始が大切です。抗生物質で完治しますが、治療を中断したり放置したりすると、脳や心臓に重篤な合併症が起こり、死亡することもあります。症状は多彩で、無症状の期間もあります。症状が消えて「治った!」と誤解する人もいますが、この時期にも体内では病原体が増え続けるので、この無症状の感染者からも感染します。本人も気づかないまま他者にうつしやすく、また、検査や治療の開始が遅れることで重症化や治療の長期化にも繋がりやすいのです。
感染者との1回の性的な接触で感染する割合は約3割と非常に感染力が強いです。コンドームの使用で感染のリスクを減らすことはできますが、完全ではありません。オーラルセックスでは喉の咽頭部に感染し、口に病変があればキスでも感染します。梅毒で潰瘍ができているとHIVなどの他の性感染症にも感染しやすくなります。治療をせずに感染から3か月ほどが経過すると、全身にバラ疹と呼ばれる薄い赤い発疹が出ることがあり、アレルギーや他の発疹性の感染症と間違われることもあります。
現在の日本は、梅毒患者が激増している異常事態です。感染力が強いので楽観視せず、早期発見、すぐの治療開始で慢性感染を阻止することが肝心です。梅毒の血液検査は一般の医療機関や保健所で受けられます。不安があるならば、ぜひ検査を受けてください。
岡田晴恵(白鷗大学教育学部教授)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年9月23日号掲載