小中学校を巡回相談しながら、学校現場の先生方から聞こえて来る「教員採用に関する」懸念材料を挙げてみたいと思います。
①いくつかの都道府県では、小学校の教員採用試験の倍率が3倍を切ったところも出始めました。その3倍を切った採用試験に合格できなかった人達が臨時任用教員(以降、臨任)として、学校現場に派遣されます。量的な不足と共に質的な懸念が拡がっています。
②今春、大学を卒業してすぐに教員として採用された人の中にも「子供の前に立つのが怖い」等々の「職業不適応」…明らかに教員に向いていない人が混在しています。そのような教員に教わる子供たちは不憫です。進路変更をすることは後退することではないので、本人が若ければ若いほど転職を促します。
③最近の教育現場では「発達課題を抱えた教員」が在籍し、その教員に対する同僚の理解をどのように取り付けるか、本人の発達特性を職場の中でどう活かしていけるか等について、頭を抱えている管理職や現場が増えています。
④「学校現場はブラックだ」とか「保護者対応は半端ない」等、社会には想像以上に教職や学校現場に対するネガティブな印象やうわさが拡がっており、年々、教職を目指す大学生・院生の数が激減しています。その影響は希望倍率の低下となり、新採だけでなく教頭(副校長)試験にも現れています。教頭(副校長)試験の倍率が2倍を切ったために、1次試験で志望者を振るい落とす必要がなくなり、2回に分けて行っていた管理職試験を1回に改める自治体が出始めました。
教職という仕事が、やりがいのある仕事であることをもっと世の中に認知してもらう必要があります。そのためには、世の中にもっと教職に関するポジティブなイメージを発信すると同時に、教員採用に関する思い切った改革の必要性が求められています(現場サイドからは)。
採用の際には、教員の量(人数)と共に質も勘案すること。そこで、以下は私案です。
提案Ⅰ=学校現場には、採用試験には合格していないが臨任として何年か学校現場を経験しており、その点では「即戦力」である臨任教員が数多く在籍しています。まず、その方たちを一人でも多く採用する方策を考えます。
例えば、臨任教員として勤務した3つの学校の校長より、教員としての資質だけでなく、人間性を含めた両面で「◎」をもらえたら合格にする。
提案Ⅱ=大学生の立場からすると4年生の4月頃には、すでに一般企業の内定者が多数存在します。その優秀な学生たちの何割かを取り込むためにも、採用試験を4月には実施して、早めに合格通知を出す。その代わりに合格後に1か月程、学校現場で実務経験させる期間をつくります。
時期やその間の身分的な扱い(例えばボランティアやインターンシップ等)は検討の余地あり。その間に自分と向き合い、教員としての適性を再検討して、自分が教員に不向きだと判断した場合には辞退を申し出ることも可とする。そのような猶予期間を与えることで、実際に教員の仕事を経験してみて現実とのギャップに戸惑ったり、自分が発達特性を有していることに気づいたりして、改めて自分が教職という職業を続けていく適性があるのかを再検討する良い機会となるのではないでしょうか。
教育行政担当者の勇気と決断に大いに期待しています。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部教職課程客員教授、教職員メンタルサポートネットワーク代表、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年8月19日号掲載