文部科学省の「食に関する指導の手引―第二次改訂版―」(以下、「手引」)が今年3月に発表された。改訂の目的は、学習指導要領等の改訂を踏まえると同時に、アレルギー等の疾患への対応や、食の格差といった食を取り巻く社会の変化に対応するというもの。学校では指導目標の明示や全体計画の作成などを通して、子供たちへの指導を充実させる。改訂のポイントを文部科学省初等中等教育局健康教育食育課食育調査官・清久利和氏に聞いた。
冊子も完成し、7月末までには各自治体に送付され、そこから9月初旬ごろまでに各校に届く予定です。
改訂のポイントは大きく分けて4つあります。
①食に関する資質・能力を踏まえた指導の目標の明示、②「食に関する指導に係る全体計画」の作成の必要性と手順・内容、③食に関する指導の内容の三体系と栄養教諭の役割、④食育の推進に対する評価の充実、です。
①の「食に関する指導の目標」としては、学校教育活動全体を通して食育の推進を図るために、各学校の指導の目標を作ることを示しています。
各学校で、指導の目標を作ります。今回、「食育の視点」として、6つの視点を示しました(=表Ⅰ)。これは、従来の「食に関する指導の目標」を、実践しやすいように再整理したものです。「手引」で詳しく解説し、この「食育の視点」を各校の目標を立てる際に活用します。
◆食事の重要性、食事の喜び、楽しさを理解する。【食事の重要性】 ◆心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄養や食事のとり方を理解し、自ら管理していく能力を身に付ける。【心身の健康】 ◆正しい知識・情報に基づいて、食品の品質及び安全性等について自ら判断できる能力を身に付ける。【食品を選択する能力】 ◆食べ物を大事にし、食料の生産等に関わる人々へ感謝する心をもつ。【感謝の心】 ◆食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を身に付ける。【社会性】 ◆各地域の産物、食文化や食に関わる歴史等を理解し、尊重する心をもつ。【食文化】 |
①の中では、「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力」を重視しています。アレルギーへの対応のほか、食の格差に対応するため、家庭と地域の連携を図っていくことなどが挙げられています。
家庭が食育に大きな役割を果たしていることに変わりはないのですが、学校も、校内食育推進体制を整備し、学校が家庭や地域社会と連携する。そうした形で食育を推進することで、児童生徒自身が、学んだことを自分の家庭の食事で実践するようになって欲しい。
そして「目標」を実現するために、②の「食に関する指導に係る全体計画」(以下、全体計画)の作成が必要となります。
「手引」に全体計画の例を掲載しました。全学年の年間計画を1枚で見られる形式です。学年や教科等で別々にせず、1つにすることで、発達段階と合わせて教科等横断的に見ることができます。全教職員が共有して理解し、チームとなって実施するためです。
全体計画によって、栄養教諭・学校栄養職員(以下、栄養教諭等)や、食育担当の教員だけでなく、担任や全教職員が食育を意識することにつながります。例えば「この学級ではあまり食育に取り組めていないのでは」と考えた場合でも、実際は専科の家庭科できちんと学んでいる。そういったことにも改めて気づけます。
特別支援学校でも全体計画を作成します。児童生徒はいずれ自立しなければなりません。一人ひとり異なる、障害や病気の状態や程度、特性、知的・身体的発達、課題など、実態を的確に把握し、校内の教師間の共通理解を図ります。
まず重要なのは、児童生徒の実態の把握です。
例えば、朝食は食べているか、献立はパンと牛乳のみなのか、おかずはあるのか。肥満など、学校の状況に合わせて、アンケートをとることなどが考えられます。学力・学習調査など既存の調査を活用し、必要に応じて、独自の調査を行うのが良いのではないでしょうか。そこで分かった自校の実態を踏まえて目標を設定し、その目標に沿って③「食に関する指導」を行います。
全体計画には、各学年・各教科等で行われる食の指導が記載されます。学校の教育活動全体を通じて食の指導を行うためです。「手引」ではこうした各教科等で食の指導が考えられる題材や指導例を解説しています。
ただし、学習指導要領で示されている各教科等の目標そのものを達成することが大前提です。誤解のないよう、「手引」作成の際には各教科等の調査官に時間をかけて確認してもらいました。
栄養教諭等の職務は、大きく分けて「食に関する指導」と、「学校給食の管理」の2つであり、これらを一体として推進する際の中核となります。
「食に関する指導」は、【給食の時間の指導】【教科等の指導】【個別的な相談指導】という「三体系」が柱となります(表Ⅱ)。学級担任等と連携して、これらを実行していきます。
【給食の時間の指導】は、衛生管理や食事のマナーの指導など実際は主に学級担任が行います。
【各教科等の食の指導】については、「手引」でも「栄養教諭の関わり方」として教科等の特質に応じて記載しています。例えば教科等で学習した食材を給食で使用する、あるいは給食の献立を導入にして教科等の学習につなげる。事前に栄養教諭が学習に関連した資料を用意し、それを担任が授業で活用することで、児童生徒の学びに生かすこともできます。
そして【個別的な相談指導】は、栄養教諭がその専門性を発揮して欲しいところです。児童生徒への指導は継続的に取り組む必要があります。栄養教諭が必要と判断した指導を行うため、組織的な対応が求められます。
全体計画の作成や目標の設置・評価はもちろん、個別の事案にも対応するためにも、校内体制を作り、足並みを揃えることが大事です。現在、食育を推進するための校内組織は、学校保健委員会等と兼ねて設置している場合も含めると、多くの学校にあるようです。
そして最初に設定した目標に対して栄養教諭が④の評価を行い、学校全体として食の指導が進んだかを管理職に伝えます。次年度もさらに食の指導を推進できるよう、評価を改善につなげていくことが大切です。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年7月22日号掲載