大腸菌には、人を病気にする病原性大腸菌がいます。腸管出血性大腸菌は毒素を産生し、出血を伴う腸炎や、それに続き溶血性尿毒症症候群、脳症などの重篤な合併症を起こすことがあります。
腸管出血性大腸菌感染症は学校保健安全法では「第三種」の学校感染症で、医師から感染のおそれがないと判断されるまで出席停止となります。自分の判断で下痢止めを飲まず、速やかに医療機関を受診します。
病原体は、腸管出血性大腸菌のO157、O26、O111など、ベロ毒素を産生する細菌です。数十個程度の少ない菌数でも人を発症させられるとされ、酸に強いため胃酸中でも生き残り、大腸に到達して増殖し毒素を出します。
これらの細菌に汚染された食品や水などから口に入ったり、感染者の糞便などに排泄された細菌が手を介して口に入ると、通常3~4日(1~8日)の潜伏期を経て、激しい腹痛を伴った水様便で発症します。発熱は軽度で、激しい腹痛を伴う下痢は徐々に血液の量が増加し、便の成分の少ない血液がほとんどという状態になります。症状がない例や軽い腹痛、下痢で済む場合もあります。患者のうち6~7%は下痢などの症状が出てから平均7日(2週間以内)に、溶血性尿毒症症候群(溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全等)や脳症(けいれんや意識障害等)などの重い合併症を引き起こすことがあります。溶血性尿毒症症候群では致死率が約5%と報告され、特に5歳未満の小児に発症のリスクが高いとされています。
腸管出血性大腸菌感染症は6月より10月に多くなります。この菌は低温には強い一方、熱には弱いので、食材をよく加熱することが大切です。ハンバーグ、メンチなどのひき肉料理にも要注意です。肉は中まで火を通し、肉汁が透き通るまでよく加熱します。
少ない菌数で感染が成立するので、生肉に使用した箸やトングを料理済みの食品に使用しないようにします。この菌は水中でも長期間生存できるので、水道水や飲んでも大丈夫という水以外は飲まないようにします。
感染者の便中には菌が排泄されます。トイレの後、料理の前、食事の前には必ず手洗いを励行し、ハンカチの貸し借りは避けます。また、下痢をしているときは一番最後に入浴し、シャワーで済ませ、タオルの共用を避けます。
岡田晴恵(白鷗大学教育学部教授)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年6月24日号掲載