例年、春の大型連休から運動会や体育祭が終わるまでの期間に、病休・休職者の第一波が訪れます。
そんな中、先日ある中学校の初任者の男性教員(仮にA先生と呼ぶ)のお話を伺うことができました。A先生は、今春大学を卒業したばかりです。今年度は1年生の担任で、校務分掌は生徒会を担当することになりました。
A先生は、毎日、放課後から夜の11時頃まで仕事をして、翌朝6時30分には出勤する毎日を送っていました。「そんなに遅くまで何をしているの?」と問うと、「仕事が終わらないので」と判で押したような答えが返ってきました。「毎日遅くまで残っていることを管理職はご存じなの?」と尋ねると、「多分、知らないと思います」と力のない声が返ってきました。
実はA先生のお話を伺う前に、校長からA先生についての情報を得ていたのですが、その中で校長は「A先生をはじめ、本校の若手教員は本当によくやってくれています」と自慢気に語っていたのでした。
1年目で、仕事のやり方や見通し等がつけられないA先生自身にも検討の余地がありますが、毎日終わらない程の仕事量を抱えるA先生のような働き方を(結果として)黙認している、管理職側には問題がないのでしょうか?
通常、初任者には、初任者研修が定期的に用意され、さらに初任者指導教諭が1年間指導に当たることになっています(その点、大学卒の臨任教員で初めて担任をもつ場合は、このような制度が一切ないので要注意です)。その他にも、分からないことがあれば学年の教員に聞きながら取り組むようアドバイスも受けているそうです。疑問に思った私は、さらに詳しくA先生に尋ねてみると、意外な事実がわかりました。
実は初任者指導の教員は午後5時までしか学校にいないそうです。通常、その時間帯は部活動の指導中で2人の都合が合わないとのこと。さらに、週1回の指導の機会には「個人評価シートの書き方」等の話が主で、込み入った話が難しいこと。さらには、学年の他の担任は、子育て中や家庭の事情で早く退勤してしまい、部活が終わって本格的に自分の仕事に取りかかろうとする時間にはなかなか相談できないなどの事情を抱えていました。
教員を目指す人は、教育という仕事に対する使命感やプライドをもともと強く持っています。自らの指導が子供の成長や自立に結びつけば、それが喜びにつながりモチベーションの源泉にもなっています。
そうはいっても、A先生のような「任されっぱなし」「放りっぱなし」で、完全に一人で仕事を処理しなければならない状況に追い込まれる若手教員の中から、運動会や体育祭が終わった直後の「ほっとしたタイミング」で病休・休職者が発生するのです。
年度当初は、管理職が校内事情を考慮しながら、各教員の仕事をバランスよく配置します。しかし部活の専門委員等、外部の仕事を断り切れなかったことで、気が付けば、明らかにキャパオーバーの状況に陥っている若手教員もいます。
もちろん仕事量だけがメンタル悪化の原因だと断定はできません。しかし初めての職場で、仕事の見通しややり方もわからず、ただひたすら目の前の仕事をこなすので精一杯の若手教員たち。この時期だからこそ管理職や学年主任が中心となり、今一度、若手教員の働き方の中身を細かく点検して頂くと、その中に休職予防のヒントがたくさん隠されています。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部教職課程客員教授、教職員メンタルサポートネットワーク代表、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年6月24日号掲載