(公社)日本臨床矯正歯科医会の主催する「春の矯正歯科プレスセミナー」が3月28日に都内で行われ、稲毛滋自会長が登壇。「矯正歯科治療における抜歯非抜歯に関するコンセンサス~患者の視点に立って実施した会員アンケート結果を基に~」をテーマに講演し、矯正歯科治療には永久歯の抜歯が必要な症例があることなどを説明した。同会では不適切な非抜歯治療による被害を防ぐために、「安心して治療を受けていただくための6つの指針」を提唱している。
同会のWebでは、「矯正歯科何でも相談」への相談件数が急増している。中でも不適切な非抜歯矯正歯科治療の相談事例が多いことから、2013年の「不適切な非抜歯矯正歯科治療に関する実態調査」の調査結果を紹介。また、今年3月に実施された「『矯正歯科治療における抜歯、非抜歯』に関する一般市民への調査」の結果も報告。治療に対する一般人の認知度に言及した。
矯正歯科治療を専門とする歯科医院があることを知っている人は60・7%である一方、「矯正歯科の専門教育を受けていなくても歯科医師であればだれでも看板に『矯正歯科』と記載標榜できること」を知らなかった人は82・3%にも上った。矯正歯科医療では治療開始前に必ず頭部の側面や正面のレントゲンを撮り、歯型などを分析し、治療計画について患者に説明し、同意を得て治療しなければならないが、回答者のうち72・3%がそれを知らなかった。
他にも無理に歯を抜かずに並べることで歯の寿命が短くなる場合があることや、無理に顎を広げて歯を並べると矯正治療後の歯並びが安定しないことについて70%以上の回答者が認知していなかったことから、医師と一般人との間には認識の差があると推定される。
永久歯の抜歯による矯正治療への医師側の考え方は、「抜歯頻度」を調べることで推定できる。抜歯頻度は、治療目的で1本以上の永久歯を抜いた患者数を患者総数で除算すると算出できる。
「矯正歯科治療に際しては永久歯の抜去が必要な症例がある」というのが、これらの調査結果を受けて同会が提示したコンセンサス(総意)だ。
不正咬合の治療を行う際は、①病歴や身体成長の検査による「問診」、②顎機能や咬合機能などの「臨床検査」、③歯型模型や頭部X線規格写真による「分析」、④問題リストの作成をした上での「診断」を経て、使用装置や抜歯・非抜歯の選択など「治療計画の立案」をするべきだと稲毛会長は提唱する。「臨床検査や分析が不十分で使用装置や治療手段ありきの計画立案には、大きな問題がある」と指摘した。
同会は、矯正歯科医療が備えるポイントとして、治療を受ける患者へ「安心して治療を受けていただくための6つの指針」(=表)も提言した。
稲毛会長は「『きちんと噛む』ことが矯正歯科治療の最終目的。そのために大切になってくるのが患者とのコミュニケーション。どんな目的で抜歯するのかなどをきちんと伝えて理解してもらう必要がある」と語った。
安心して治療を受けるための6つの指針 |
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①頭部X線規格写真(セファログラム)検査をしている |
②精密検査を実施し、それを分析・診断した上で治療をしている |
③治療計画、治療費用について詳細に説明をしている |
④長い期間を要する治療中の転医、その際の治療精算まで説明をしている |
⑤常勤の矯正歯科医がいる |
⑥専門知識がある衛生士、スタッフがいる |
成長段階の子供の矯正治療では、顎の成長をコントロールして骨格的な改善を図ることができるため、5歳から14歳までの間に治療を行うと有効的だといわれている。しかしどの装置を使って治療するかによって、治療開始の最適年齢は異なるため、7~9歳の児童が一度矯正歯科を受診することを推奨している。
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教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年4月22日号掲載