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学校施設

学びと空間のあり方を考察 教育改革国際シンポジウム<国立教育政策研究所>

2019年4月22日
特集:求める学びの姿を支援する学校施設

創造的な学習環境を
国研 教育改革国際シンポジウム

新しい時代に必要な資質・能力を育むには、学校教育全体の在り方を見直すことが求められる。国立教育政策研究所は1月30日、都内で「教育改革国際シンポジウム」を開催。参加者は教員の「働く場所」である学校施設について考えた。テーマを「学びのイノベーションに向けた創造的で働きやすい学校空間」として、パネラーはシンガポールと日本の学校施設について考察した。パネラーの発言要旨は次の通り。

学習を支援する空間設計
シンガポール国立教育学院 タン・ウン・セン教授

シンガポールは資源が限られた小国であるため人材育成が鍵になる。そのためには教育への投資が必須。教育のゴールは良い人間を育てることであり、適切な価値観を持った人を育てることだと語る。〈以下は談〉

教員はクラスだけでなく全校生徒を見守る必要がある。生徒が学校にいない時間のことも考え、知識環境の設計者になることが求められる。

教員の役割は第一に考える教員になること。そのためには価値観について考える必要がある。21世紀において最も大事なことは価値観。適切な価値観に基づいて学習すると学習の動機づけが明確となる。シンガポール国立教育学院は3つの価値観を教員に教えている。

1つめは「学習者のことを知る」。すべての子供が学習目標を達成できると信じて取り組む。2つめは「教員のアイデンティティ」。教員は学習の象徴であることをアピールすること。3つめは「地域社会から学ぶ必要があること」。

大事なのは、どのように教員が学習者を助けるか。教室にいる学習者がベストな環境で学習できるか。そこで学校建築が重要な役割を果たす。生徒の主体的な学習を導き、学習プロセスを支援するため、物理的空間の設計の重要性を認識して学習空間を構築する。

例えば丸いテーブルを作ってグループになって座らせると、生徒の話し合いが促される。学習空間においてはフレキシビリティが重要で、空間の形状や大きさが生徒の学習行動に影響を与える。

グループワークでは生徒の考えを引き出すため、アイデアを表現できるよう光や色なども考慮。学習活動で生徒が移動しやすいよう、学習空間は十分な広さを確保するように設計している。

空間づくりで指導力向上
独立行政法人教職員支援機構 次世代教育推進センター長 大杉昭英氏

子供が豊かな人生を送り、社会がうまく運営されるためには、学校に良い教員がいることが大前提となる。

日本の教育の課題の一つは、教員の年齢構成の偏りである。ベテラン層の教員の数は多く、中堅の教員の数が少ない。さらに新卒者は半数程度で、他の業界から教員になる人が多い地区もあり、年齢が上でも教員経験が浅い人が多い。ベテラン教員が大量に退職する中、経験の浅い教員を指導する中堅層の教員が少ないことが問題となっている。

松山市では、大学、教育委員会・教育センター、学校が連携して専門的な知見を踏まえた実践的な研修を行っている。

愛媛大学教職大学院と松山市教育研修センターは隣接し、同じ敷地内にセンターと小学校と中学校がある。センターのエントランスには大学院との連携室を設置。研修室では大学教員がセンターの指導主事にアドバイスするなどで連携。大学院の授業にはセンターの指導主事も参加。指導主事が大学院の授業で講師を務める場合もある。

センター内の教材作成室では大学教員や市内の小中学校の教員が教材作成を行うなど、若手・中堅教員の指導力向上を図る空間づくりのモデルとなっている。

LL教室を話し合い活動が行える場に変えた事例として紹介したいのは岐阜県の中学校。机を取り払い、床にカーペットを敷き、周りに可動式のホワイトボードを設置。この教室で「インフルエンザが大流行した際、誰からワクチンを接種するか」などのテーマで話し合い、ポイントを記入しながら討議する授業が行われている。

目的を明確にし改修
シンガポール国立大学 教育工学センター長 ラヴィ・チャンドラン氏

シンガポール国立大学は従来の座学から、主体的な学習が行える環境に移行した。座学が全くないわけではないが、反転授業など多様な教授法と組み合わせた授業が行われている。〈以下談〉

机がきれいに並んだ従来型教室では、大人数を収容できるが、ディスカッションには適さない設計となる。同大学はよりアクティブ・ラーニングに適した形として、グループになって座るように机の並びを変えた。

このように教室の形を変えるまでには、設計前の協議が重要となる。クラスで何を教えるのか目的を明確にし、どのような活動を行うかを確認する。空間の責任者を明確にし、支援すべき活動を協議する。この設計前の協議の段階では、国内外の教育機関を視察するようにしている。視察を通じてアクティブ・ラーニングの成功例や失敗例を学び取り入れていく。

まず「学習」を第一に考え、次に「技術」となる。例えばスクリーンの位置が低すぎる、授業中に時計が気になるなど、少しの変化が高価な技術以上に学習成果に影響を与える場合がある。そのため最初は段階的な改善策から進めている。

教室の改修後は学生にアンケートを実施。新しい教室のレイアウトは快適か、ディスカッションはしやすくなったかなどで、問題があった場合は手直しを検討する。

大ホールでもディスカッションが行えるように改築した。また、多目的空間は講義を行うだけでなく、イスを移動させればスタジオとしても使える。机やイスなどは学習において大きな役割を果たすので投資を惜しんではならない。投資すれば交換する回数も減り、長い目で見れば得することになる。また、明るい色を取り入れることで活気も生まれる。

教員の問題解決の空間を
日本設計 第3建築設計群 副群長 チーフ・アーキテクト 小泉 治氏

授業や講義の内容を見直すことで、教員の働き方改革が実現できないかと考え、教員と生徒の距離をどれだけ近付けられるかを念頭に学校の設計に携わっている。教員の働き方改革を実現するには、教員をサポートする空間、学生のモノづくりをサポートする空間、地域の中心となる空間づくりなどが重要だ。

教員の働き方改革について実施した教員アンケートでは「時間が足りない」、「収納がほしい」などの回答がある。問題解決に向け、小学校では教室での教員コーナーを充実。中学校は教科センター型で、生徒が移動して教員の時間を確保すことで解決を図った。

「対話がほしい」という回答もある。そこで横浜共立学園中学校・高等学校(神奈川県)を改築した際は、2階の教員室前に交流スペースを設け、教員と生徒、生徒同士のコミュニケーションが図ることができるようにした。談話室もあり、生徒は教員に気軽に質問できる。

平成21年に竣工した甲南大学西宮キャンパス(兵庫県西宮市)の設計にあたり、アトリウムの一角にグループでディスカッションが行えるゾーンを設置。学生のコミュニケーション能力や論理的思考、プレゼンテーション能力の育成などがねらい。教員は研究室からアトリウムで学習する学生を見守る。実習室ではグループ単位からクラス単位まで多様な学習が可能となっている。

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年4月22日号掲載

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