平成23年、高校学生寮で髄膜炎菌による集団感染が起こり、劇症型髄膜炎菌敗血症で1名が亡くなりました。これを受け、翌年に髄膜炎菌性髄膜炎は第2種の学校感染症となりました。
血液や脳脊髄液は菌やウイルスが存在しない場所であり、このような無菌的な部位に髄膜炎菌が入り込んで病気を発症すると「侵襲性髄膜炎菌感染症」と呼ばれ、日本では年間約40人の患者が発生しています。
国内の発生頻度は低いものの、致命率は19%と高く、回復しても1割から2割の患者に聴覚障害や神経障害、四肢切断などの生涯にわたる重大な後遺症が残る危険な感染症です。
髄膜炎菌は健康な人の鼻や喉の粘膜にも存在し(保菌率0・4~0・8%)、飛沫感染でうつります。平均4日の潜伏期間で発症し、髄膜炎菌が稀に血液中に侵入・増殖してしまうと菌血症や敗血症、そして髄膜炎や髄膜脳炎といった重篤な病態に急速に進行することがあります。最悪の場合、発症から24~48時間以内に死に至ることもあるのです。
一方で初期症状(発症12時間以内)は頭痛、咽頭痛、鼻汁、発熱などと風邪症状と区別がつきにくく、早期診断や治療開始が難しい疾患です。発症後13~20時間ごろには皮下出血、頂部硬直(首の後ろが硬くなる)、光過敏症などの症状があらわれ、その後、意識障害やけいれん発作といった症状につながります。
さらに急性劇症型のウォーターハウス・フリーデリクセン症候群となると、急激な紫斑の拡大や多臓器不全から全身のショック状態となり、致死率は50%にも及びます。
誰でも感染する可能性がありますが、15~19歳に侵襲性髄膜炎菌感染症発症が多く認められます。日常生活において、ペットボトルの回し飲みや食器の共用、寮生活などに代表される密な共同生活などが、感染のリスクを高くしていると考えられます。
患者には、ペニシリンGや第三世代セフェム系抗菌薬を経静脈投与するなどの治療が取られます。髄膜炎菌は二次感染の頻度が高いので、流行拡大防止措置として濃厚接触者には抗菌薬の予防投与も行われています。日本小児科学会は小児の任意接種ワクチンにおいて、4価髄膜炎菌ワクチンを「学校の寮などで集団生活を送る者」を推奨の対象に加えています。
特に教育現場で知って予防すべき感染症です。
岡田晴恵(白鷗大学教育学部教授)
教育家庭新聞 新春特別号 2019年1月1日号掲載