私の主な仕事は巡回相談です。なぜ、あえて学校訪問をしているかといえば、先生方の悩みは、その学校現場や職場から発生しているからです。当事者以外の関係者から、いくら有益な情報を頂いても、かえってそれがカウンセラーの中で変な先入観(例えば、先生はこうするのが当然である)となって、ニュートラルな状態で先生と向き合えなくなる危険性を回避するためにも大切です。
相手を「理解する」という言葉の中には、カウンセラー自身の枠組みを通して相手をみる(理解する)という意味が含まれており、それは必ずしも相談者の思いと一致しない可能性も含まれています。そこで私の場合には「相手の気持ちはわからないものだ」という前提から面接をスタートしています。だからこそ、できるだけ相手が興味関心のある世界の話を、「教わる気持ちで」聴くように努めています。
まず、本人の話を管理職たち側がしっかりと聞けているかどうかを確認するところから入ります。なぜなら、本人から語られていない話の中に、現状把握や問題解決を図る上での重要なヒントが隠されている場合があるからです。一方、本人の話をしっかり聞けたにもかかわらず見解の相違が起きている場合は配慮が必要です。
通常、人は程度の差こそあれ、無意識に「自分の都合のいいように」話をする傾向が強いからです。聴き手が本人の話を“鵜呑み”にしてしまったケースの中には、本人の「思い」や「願望」と「事実」との「識別」がつかなくなり、同じ方向を向いたスタートラインにつけない場合があるからです。
その際、本人のプライバシーに最大限配慮しながら実施することは言うまでもありませんが、私たちが頼りにするのが事務主事や校務員さんたち。この方たちから頂く情報は、客観的な視点から語られる内容が多く、大変示唆に富み、臨床活動の一助となっています。
スクールカウンセラー(今後は認定心理士)は、原則として、子供及び保護者のカウンセリングを行うことを主な役割と謳っています。子供や保護者の対応を考える際に、教員とのかかわりの中でコンサルテーション(作戦会議)を行うこともあるでしょう。しかし教師個人のカウンセリングにまで踏み込むことは稀だと思います。
一方、教職員メンタルヘルスカウンセラー(TMHC)の主な役割は、以下の条件を謳っています。
①教職経験が豊富で、学校文化や学校風土、教職全般に関する理解や造詣が深く、かつ心理臨床の専門教育を受けた方。
②一般教諭の面接だけでなく、管理職等に対する面接や具申も可能な人材であること。
③管理職研修や校内研修等における講演やグループワーク等を通して集団をまとめる・動かす・育むことができる人材。
以上の条件の中で特に①と②に該当するには、大学院等での心理臨床の専門教育を受けただけではなかなか対応できないということです。例えば、大学院を修了して数年しかたっていない若手のカウンセラーに、50代の先生方が実際に相談に行くかといえば、なかなか難しいのが現状のようです。
そこでTMHC採用の際には、追加条件として④教職経験15年以上(臨任の年数も含む)、もしくは学校臨床経験が15年以上の方。年齢でいうと40歳以上の方を想定しています。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部教職課程客員教授、日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年10月15日号掲載