労働安全衛生法では50人以上の従業員がいる職場には、労働安全管理者を置く定めです。しかし教育現場では、さいたま・川口市教育委員会のように教委の幹部クラス(例えば学校教育部長・学務課長等)自らが労働安全管理者の資格を有している自治体もありますが、ほとんどの教委で教職員の病休・休職関係を扱う学務課や教職員課等(自治体によって呼び名は異なる)の担当者がその職務に当たっているのが現状のようです。課題は、担当者が数年で異動するので、教委のメンタルヘルスに関する専門性の蓄積と安定性が定着しないところです。
二つの方法が考えられます。一つは、各校に1名配置されている「衛生推進者」や「養護教諭」を通して情報収集する方法。もう一つは、職員室にいて教職員の変化を日々観察することができる「教頭・副校長」と連絡を密に取りながら、子供との関わり方や保護者対応・部活動指導等において「少し心配だな」と感じた段階で教委に報告することを徹底することです。特に注意して見て頂きたい対象者は、「転勤1年目教員」・「大学卒で初めて担任を受け持つ臨任教員」・「就職に際し初めての一人住まいを経験する新採教員」等です。
各自治体によって実施方法はまちまちですが、担当者が替わっても毎年継続することが大切。内容的には大きく分けて三つの方法が実施されています。一つ目は、夏休み等の長期休暇の機会をとらえて、管理職や新採教員・衛生推進者等を対象とした「メンタルヘルス研修会」を実施する、2つ目は、教職員に向けて「メンタルヘルス通信」等を定期的に発行して、活字を通してメンタルヘルスの啓発活動を行う、3つ目は毎月1回、「リフレッシュデイ」「ノー残業デイ」等、教職員が早く退勤する日を設定して、メンタルヘルスの啓発・啓蒙を実施する例も増えてきています。
まず、メンタルに関する情報交換の際には、校長・教委の担当者同士が直接会話して情報交換をして頂きたい。なぜなら稀に、前任校の校長と異動先の校長と、語った転勤理由が違っている場合があるからである。病休・休職の有無に関する情報交換は最低の義務として、今回、転勤に至った経緯を丁寧に聞き取り、異動先の校長に伝え、担任や校務分掌等の人事に活用してもらいたい。その他、本人と話をする中で、現在も通院中か否か、医療機関名等の情報も本人から申し出るような関係作りが構築できることが望ましい。
メンタルヘルス対策として特に「予防」に力を入れて毎年3億円前後の人件費の削減に成功している自治体が川口市。これに準ずる自治体としては沖縄県、福島市、仙台市などがあげられます。いずれもメンタルヘルスカウンセラーや保健師の方をスクールカウンセラーとは一線を画す、「メンタルヘルスの専門家」として位置づけて、上手に活用されているようです。
筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部教職課程客員教授、日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、埼玉県川口市教育委員会教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年8月20日号掲載