養護教諭を経験し、養護教諭養成機関で学生に教える立場となって10年余りが経ちました。研究職となった今でこそ、「養護教諭の魅力」を自然に話すことができますが、現職の頃は、なかなか自分の実践や普段の対応を肯定的に捉えることができず、仕事の話をすることに躊躇することが多かったことを思い出します。
保健室に一人でいることも多く、他の職員には何をしているのかが見えないのが養護教諭です。他の養護教諭がどのような仕事の仕方をしているのか、仲間同士でお互いに「見て学ぶ」という機会もほとんど持てないのが現状です。
毎年必ず行われる定期健康診断にしても、学校を異動した場合には実施方法が異なる場合もあります。今まで自分が培ってきた方法が使えないので、まずは、異動先で人間関係を作りつつ、その学校で行われている方法を踏襲した上で、より良い方法を一から考えていくことになります。このような状況が、ややもすると養護教諭の気持ちを憂鬱にさせてしまうことがあるのではないでしょうか。
20年以上も経験がある養護教諭から、こんなお話を聞きました(仮にAさんとします)。
Aさんは、校長先生から信頼され、校内でも職員と仲が良く、養護教諭としての力を発揮しているように筆者には見えていました。これに反してAさんは、養護教諭としての自分に自信が持てず、育ってくる後輩に対して、自分が何を教えてあげられるのかと思い悩んでいました。
ちょうどそんな時に、Aさんが頑張って行った支援に対して、校内の職員が「ありがとう」「申し訳なかったね」とねぎらいの言葉をかけていてくれました。その後Aさんは自分を振り返り、「養護教諭はどんなに頑張っても評価されないので、そのうち、どうせ自分がやっていることはたいしたことではない、と思うようにして、自分で自分の支援の価値を下げていた」と語ってくれました。
児童生徒はいつでもどのような時でも、何かあれば保健室を拠り所にしています。筆者も現職時代、様々な背景と理由をもった生徒が来室していたことを思い出します。頻回来室をする生徒の中には、親子関係、両親の離婚や精神疾患、兄弟姉妹の入院、祖父母の死など、重い理由を背負っている場合もあります。
保健室という空間は気軽にアクセス出来て、養護教諭に受け入れてもらうことで緊張感から離脱し、意欲を取り戻すことができる場であると言われています。子供達からも「保健室は学校にあるけど、学校じゃないみたいだから落ち着く」という言葉が聞かれます。
このような矛盾を包み込みながらも子供達を平等に受け入れ、そして意欲を取り戻し、教室へと向かわせていくことができる保健室でありたいと養護教諭は願うところだと思います。
しかし、様々な問題を抱える子供達を分け隔てなく受け入れることは、矛盾との葛藤でもあります。養護教諭にどのような手を差し伸べていくことが、支えとなるのでしょうか。
Aさんの言葉に大きな衝撃を受けましたが、改めて、多くの先輩後輩、同僚の支えあいが大切であることを深く感じています。校内の職員のまなざしや声かけが養護教諭だけでなく、一人職の支えとなり、自分の仕事に誇りをもてることにつながるのです。
【2014年10月20日号】