教員のメンタルヘルスを悪化させる要因には様々なものが考えられますが、今回は特に「子どもとの関係作り」に起因する2つのケースについて取り上げてみたいと思います。
以下は、放課後、中学1年の男子生徒が、掃除をさぼって担任に呼び出された場面です。(担)は担任、(徒)は生徒です。
この例でも分かるように、確かに先生の言うことは間違っていないのですが、正論だけで子どもに迫ろうとすると、ますます子どもは追いつめられ、話を聞いてもらった感覚にならないのです。
子どものいうことを聞き遂げる前に、教師の言うことを聞かせようとするから思いが通じない、つまり、その順序を守ることが大切で、「教えること(指導)」に熱心になる前に、子どもを「受け止めること」に一生懸命になってほしいものです。
職場に馴染めない教員の中には、子どもを「受け止められない」自分の“つけ”を、いつの間にか他の同僚がカバーしてくれていることなど知る由もなく、気付いた時には、自分が職場の中で「孤立していた」という場合もあるようです。
子どもたちに対して 素直に謝れますか
2番目の例として、「子どもとの関係作り」に起因したケースは、教員自身が子どもたちから“否定された”時の態度を見ると、メンタル面を悪化させる要因がわかることがあります。
同じ職場で働いていても、子どもの前で“謝れる”教員は、子どもとうまく関係を築いているようです。その一方で、自分が「子どもを受け入れる」と子どもたちから「乗り越えられる(自分の言うことを聞かなくなる)のでは」と思い込み、「失敗しないように」「“スキ”を見せないように」と肩の力が抜けない教員もいるようです。
その結果、できる子どもを自分の所まで「引っ張る」指導は得意なのですが、子どもの所まで“降りていけない”ために、出来ない子、わからない子どもに対しては非常に冷たい態度を示すのです。
教職に長く就いていると、自分たちの立場や役割からの「物言い」や「発想」が当たり前になり、いつの間にか“世の中の常識”からかけ離れてしまっていることがあるものです。しかも、50代を超える頃には、子どもとの価値観の溝は深まるばかりで、「今さら、自分を変えるのは“しんどい”」と嘆く教員が増えています。
そんな中から「(指導を)いい加減にできない」思いの教員が「退職」を選択する場合もあるようです。こんな時こそ、「しょうがないなぁ」と子どもを受け入れることに再チャレンジしてみてください。年齢を問わず、子どもから教わる気持ちになった時が、教師自身が変われるチャンスですから。
執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)
【2013年9月16日号】