「新しい職場の中では本当に孤独でした」と涙ながらに訴えていた転勤1年目の女性教員(仮にA先生と呼ぶ)が夏休み前に休職に入ってしまいました。
教員の休職者に関して、とくに5月の連休明けあたりから新規採用教員の職場不適応と並んで問題となるのは、転勤1年目教員の休職者が激増することです。
例えば、前任校長との打ち合わせ不足等により、学年配置や校務分掌が不本意な形でスタートして休職に入るケース、今まで自分が行ってきた指導が、新しい学校では通用しなくなり休職に入るケース等々。とりわけ後者のケースについては、年齢を問わず、どの学校現場でも起こりうる問題です。
転勤先においては、休職にまで至るような様々な不安材料が待ち構えています。(1)知らない地域に入り、(2)子どもや保護者の様子や実態についての情報も得られないまま、(3)人間関係が構築されていない職場に異動になるのです。
A先生に「どんな場面で孤独感を強く感じたのですか」と伺うと、例えば、子どもの指導に関して保護者からクレームを受けた際に、自分としては正しい指導をしているつもりでも、一方では、この指導で本当に良いのかどうかを確かめるすべがないので不安で仕方がないと言います。
そんな時、同僚や管理職から「あなたの指導は間違っていないから」とバックアップしてくれるようなひとこと(働きかけ)があれば、A先生は休職にまで追いつめられることもなかったかもしれません。
臨床経験上、新しい職場の中にもう一人自分の考えに同調(賛同)してくれる仲間がいれば、倒れることはほとんどありません。さらに同じ思いの仲間が3人いればもう大丈夫です。しかし、A先生の場合には職場のバックアップがなかったために、「独りで戦って燃え尽きてしまった」のです。
このようなケースではどのような対処ができると良かったのでしょうか?職場環境を視野に入れながら、以下の2点について考えてみることにしましょう。
まず、転勤して1学期くらいの間では、なかなか信頼できる同僚が見つからないのが一般的です。そんな時は、元の職場の同僚や、同期の教員仲間等、誰でも構いませんので、まず「学校外に」愚痴をこぼせる相手を確保することです。その際に「相手の迷惑にならないかな」と遠慮して自分で問題を抱えてしまう人ほどメンタルを悪化させているようです。
次に、仕事の一部として日常的に情報交換の機会を組み込むことです。「忙しくて会議をする時間も取れない」という教員の訴えを聞きますが、医療現場では1人の患者に対して何人もの看護師が関わり、絶えず情報交換を密にしながらチームで患者を支えています。「忙しいから」などは言い訳にもなりません。「雑談」や「情報交換」を通して職場の関係作りをしていくのが教員を含めた対人専門職という仕事ではないでしょうか。
繁忙な毎日だからこそ、廊下での立ち話や休み時間等のすれ違いざまの言葉かけを大事にしてほしいのです。「協力」とは、お互いが味方である、仲間であるという認識から生まれるものです。教員一人ひとりがバラバラになるような働き方になっている今こそ、もう少しお互いのことに関心をもち”雑談”の力を活用していきませんか。
執筆=土井一博(どい・かずひろ)日本教職員メンタルヘルスカウンセラー協会理事長、川口市教育委員会学校教職員メンタルヘルスチーフカウンセラー、順天堂大学国際教養学部客員教授(教職課程)
【2013年8月19日号】