「感情労働」とは社会学者のA.R.ホックシールドによって示された言葉です。それまで労働は「肉体労働」と「頭脳労働」に二分化されることが多くありました。感情労働は肉体労働や頭脳労働と同じく達成感や充足感をもたらしますが、ストレスや疲労感をももたらします。その中でも特に感情労働は精神的な負担や重圧というストレスを抱えやすいのです。
ストレスとうまく付き合うための3つのキーワード |
もともと、接客業やサービス業では、この感情労働のストレスを受けやすいと言われていました。現代の教職員は、際立ってこの感情労働によるストレスを強いられる職業であるように思われます。
教員は聖職と言われる立場にありました。今もその立場に立っていることは変わりないかもしれません。しかし教職員を取り巻く環境が変わった現代においてその職務は非常にストレスフルなものとなっているのです。「先生のお蔭で」という加算法な立場から、「先生のせいで」という減点法に変わりつつあるように思われます。
そういう環境のなかで、教職員は自己の感情をコントロールしながら職務を全うしています。保護者や子供からのクレームに対しても、感情を冷静に保ちながら対応しているのです。
保護者や子供から寄せられるクレームのなかには、家庭のストレスを先生の言動にぶつけるという形(はけ口)にすり替えられているケースも見られます。それをカウンセラーの世界では「問題の外在化」と呼んでいます。いわゆる責任転嫁です。そのような立場に立たされた教職員は理不尽なストレスを抱えることになるのです。
そもそもストレス自体は自分で理解(把握)できる範疇で適度に持つことは悪いことではありません。しかし、理解不能で把握できない大きなストレスはメンタルヘルスの状態をおびやかすことにつながります。ましてそれらが積み重なることは精神疾患の引き金になる可能性もあるのです。
教職員は、私的な問題を抱えている時でも、安定した感情をもって子どもや保護者と関わらなければなりません。無理に怒りや不安の感情を抑えることは大きなストレスとなる危険性があります。
そのような環境のなかに生きている教職員はこの「感情労働ストレス」とうまく付き合っていく必要があります。うまく付き合っていくためのキーワードは、セルフケア(自分自身のサポート)、ラインケア(上司のサポート)、チームケア(学校内の助け合い)、そして自らが「助けられ上手になること」です。
肉体労働では身体の疲れを、頭脳労働では頭の疲れを自覚することが大切です。それと同様に感情労働では、心の疲れを自覚することが大切。自覚することからケアが始まります。