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教育委員会

いじめから子供を守る<第66回日本PTA全国研究大会>

2018年9月17日
開会式では「しばたパフォーマンスキッズ」によるダンスパフォーマンスが披露された

開会式では「しばたパフォーマンスキッズ」によるダンスパフォーマンスが披露された

「第66回日本PTA全国研究大会 新潟大会」(主催=公社・日本PTA全国協議会)が8月24・25日に開催された。全国から小中学校のPTAが参集し、家庭・学校教育など10のテーマで協議する分科会や基調講演が行われた。特別第1分科会は「『いじめ』心の声に気付くには~見逃さないために出来ること~」をテーマに協議した。

学校との信頼関係築く

開催にあたり、東川勝哉会長は「価値観や家庭環境は異なるが、家庭・学校・地域で一体となり子供たちを取り巻く課題の解決に本気で取り組まなければならない」と会場にメッセージを伝えた。「いじめはいかなる場合もあってはならないが、悲しい報道が後を絶たない。いじめに対してPTAができることを学び合いたい」とした。

パネルディスカッション

登壇者は滝澤雅彦氏(公社・日本教育会専務理事)、呉本啓郎氏(全国国立大学附属学校PTA連合会会長)、泉満氏(一社・全国高等学校PTA連合会副会長)、外﨑浩司氏(青森県PTA連合会会長)。コーディネーターは高橋知己氏(国立大学法人上越教育大学大学院教授)が務めた。

現状の取組について

青森県P連の緊急提言

青森県P連の緊急提言

呉本 以前附属学校でいじめが発生した際、現場の認識の甘さなどから対応が遅れてしまった。感覚を改めることが必要だと感じ、いじめ認知の徹底に向けて学校とPTAが協力した取組に努めている。

いじめ防止については、特に家庭教育における自他を尊重する態度・能力の開発、自己肯定感の育成は重要だ。加害者側の子供も課題を抱えているので、自己肯定感を向上させることは大切。親や教員が子供を注意深く見守り、身だしなみなどの小さな変化を見逃さないことも早期発見につながる。

他人の子供についていじめがあると情報を得た場合も、保護者が学校に情報提供できる仕組みを作る必要がある。PTAが傍観者にならず、いじめが発覚した際は、周囲の子供のケアも行って欲しい。

本会ではPTAと児童生徒を対象とした、いじめ防止プログラムを開発した。PTAにはいじめ発覚後は被害者に徹底的に寄り添い解決すること、その後で加害者のフォローを行うことなどを伝えている。PTA対象のセミナーを子供に見学させ、子供と一緒にいじめの協議をする取組を実践しているが、良い議論ができている。

泉 自分の子供のいじめをきっかけにPTAに関わりはじめた。自分自身はかつていじめを受けていたが、担任の寄り添いで救われた経験がある。大人に見守られているという気づきは重要。いじめがなくなる事はなかったが、いじめに向かう姿勢が生まれた。自分の子供には“たがらない”兆候が見られ、それをきっかけにいじめが発覚した。幸いスポーツの分野で目標ができ、いじめの悪循環から抜け出すことができたが、PTAで取り組む必要性を感じた。学校と家庭、地域が本気で取り組まなければならない。

外﨑 子供が小学校の時に転校した際、いじめが起こるのではと心配した。元々PTAとの関わりがなかったため、学校は敷居が高く、相談がしにくかった。知り合いを通じて相談した結果、学校として対応してもらうことができた。

平成28年に青森県でもいじめをきっかけに子供が自殺するという事案が発生した。いじめ防止については、家庭教育がとても重要。本会でも各家庭に向けて緊急提言を出した。その中では〈子供の発するサインに気づけるような家族の会話が足りているか〉〈いじめは絶対に許さないという姿勢で子供に接しているか〉〈親同士のつながりができているか〉の3つを挙げている。

瀧澤 本会では学校の責任者として校長がいじめにどう向き合うか、という視点で活動を行っている。そもそも〈学校〉というのは概念で、その実態は校長にある。校長がいじめに対してどう取り組み、PTAが校長をどうリードしていくかが重要。

教員には独特のメンタリティがある。担任が一人で自分のクラスの子供に対して責任を負うような真面目さがある。しかし、それがいじめの発見を遅らせている。子供たちは親や担任に心配をかけまいと、直接相談しない傾向が多く見られる。学校に必要なことは担任が抱え込まず、副担任を含めた全教職員で一人ひとりの子供を見ていくこと。校長は先頭に立って指導する。

その際にPTAや地域に学校で見きれない部分をどうカバーしてもらうかはポイント。普段から子供との信頼関係を築き、協力を得るようにして欲しい。

学校とどうつながりを作っていくか

外﨑 PTAとの関わりが薄い家庭と直接話し合う機会がない。ネットワークを広げる仕組みづくりが必要。PTAと関わるチャンスを掴みきれていないのではないか。

滝澤 いじめの課題に積極的に取り組んでいる学校ばかりではない。保護者が校長に助言する機会があってもいいと思う。また、子供には、いじめたいという気持ちまでを否定するのではなく、『行動に起こすことがダメ』と伝えるべき。学校が伝えられない部分は家庭から伝えて欲しい。

“いじり”と“いじめ”はどのように判断・対応すればいいのか

呉本 “いじり”はいじめと解釈されている。法律ではいじめの解釈が完全に被害者側の判定による。他人の立場になって思いやれるかが鍵。

泉 いじめは起こるものとして考えなければならない。子供に兆候は必ずある。“いじり”が始まったら大人が見守ること。また、子供は大人に相談した後の情報の扱われ方を心配している。対応の仕方はしっかり説明して欲しい。

基調講演
思春期は子供の力信じて

鳴門教育大学教授の阿形常秀氏が登壇した。阿形氏は不登校生徒への支援に力を注いだ経験を踏まえて、同学のいじめ防止支援機構長として活動している。同講演では、「仲間と自立」をキーワードに、幼年期から思春期のいじめとの向き合い方について解説した。

人を嫌うことはいじめなのか

イギリスの学校に訪問中、教室内に監視カメラが設置されているのを目にした阿形氏。日本の学校においても早晩導入が進むことが予想されるとした上で、「いじめ防止の観点から見れば、対処療法にすぎない。カメラがなかったらいじめが起こるという要素が残ったまま。根本的な解決にはならない。本来は健全な学級作りが重点であるべき」とする。

短編『セッちゃん』(重松清著/新潮社『ビタミンF』収録)では主人公の加奈子が「人を嫌いになることは悪いことか」と親に問いかける。大人になってももちろん苦手な人はいる。「いじめを防ぎたいという焦りから『人を嫌ってはいけない』と指導しがちだが、それは子供の実感からずれていく気がする」と阿形氏は語る。

思春期のいじめは安心基地を失うこと

幼少期は大人への依存と小さな自立の繰り返しだ。『はじめてのおつかい』(筒井頼子作/福音館書店)では、「お使い」を通して幼い子供にとっての安心基地と自立を取り上げている。主人公のみいちゃんにとっての安心基地は母親で、完全に手を離れることはない。

一方で、思春期の子供にとって一番安心できる存在は「仲間」だ。ジブリ映画「魔女の宅急便」では、主人公のキキが親から離れて独り立ちをし、様々な危機に直面するが、キキが相談したのは親ではなく仲間だった。「思春期にとって“仲間”が持つ意味は大きく、いじめは安心基地を失うことに等しい」

いじめ防止は子供自身に考えさせる

人はなぜ人をいじめるのか。阿形氏は「相手の気持ちが分からない」のではなく、「不満や不安があるから」と捉えている。特別な子供が加害者になるのではなく、どの子供も加害者や被害者になり得るのだ。「いじめは一定の人間関係の中で起こる。親密な関係から発展したいじめは見極めが難しい」

『わたしのせいじゃない』(レイフ・クリスチャンソン作/岩崎書店)では、加害者一人ひとりの言葉を取り上げ、いじめの責任は誰にあるのかを読者に問いかけている。ある高校の授業で同書を扱った際、生徒に当事者意識が生まれ、小さないじめの芽を摘むことができたという。「いじめが発生したら誰の責任かを問うのではなく、子供自身にいじめ防止をどう考えさせるかが重要」とした。

最後に「子供であった当時の親や教師、仲間の意味を思い出せば、いじめに気付くきっかけは見つかると思う」と語った。

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年9月17日号掲載

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