MM総研「GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」によると、GIGA端末の68%が2025年度中に、21%が26年度中に更新予定だ(調達台数と時期の双方に回答を得た1114市区町村が対象)。端末更新でOSを切り替える市区町村は12%。91%の市区町村が都道府県の共同調達に参加する意向でそのうち71%の市区町村が想定単価を「5.5万円以内」としている。端末更新時期が集中することから円滑な端末供給と更新作業が課題となりそうだ。
調査は今年7月から8月にかけて実施し、都道府県主導の共同調達への参加意向や課題、採用予定OS、調達時期や台数などを尋ねた。全国の市区町村1,741の教育委員会へ電話調査を実施し、1,279市区町村から回答を得た。
GIGA 第二期では、政府の負担で都道府県に基金を創設し、補助金を交付する方式をとる。端末更新のた めの新端末の調達は、前回は市区町村単位での調達だったが、今回は原則として都道府県ごとの共通仕様書 をもとに共同調達する予定。そのため調達の大型化が予想される。調査結果から、91%と大半の市区町村 が共同調達で端末を更新する意向であることが分かった。
多くの都道府県は市区町村の要望を尊重しながら取りまとめ、なるべく共通化する形で共通仕様書の作成を進めている。したがって市区町村が要望するOS ごとや、OS の中でもいくつか仕様書のパターンを分けることを検討しているところもあった。なお、オプトアウト(不参加)を表明した市区町村は4%だった。その主な理由は、「政令市や特別区など人口規模が大きい」「調達時期が合わない」「LTE モデルなど独自の要件がある」などであった。
さらに、共同調達するうえでの課題や懸念を尋ねると「端末の価格が高騰している」が48%と最多となった。前回調達と比べ、円安の影響などでGIGAスクール対応端末の単価が上がっている。さらに、これまでに高単価な端末を配備してきた市区町村では、更新にあたり「キーボードカバーやペンなどの周辺機器を購入する予算が足りない」との回答も多かった。
調達予定の端末単価を政府補助金の範囲内である5.5万円以内とする市区町村が71%を占めた。5.6万円以上は15%だが、そのなかでも6万円台が多く、最大でも8万円台を想定しているようだ。
自由回答でその他の課題を尋ねると、「3OSを適切に比較できていない」という声が多かった。都道府県主導でベンダーの説明会を開いたり、改めてOSから比較検討したりするといった対応が必要となるだろう。次いで「県主導のため見えないところがある中で予算など色々と決める必要がある」「共同調達の内容が確定されておらず先行きが不透明」「県の統率力に疑問を感じている」「(共同調達の)協議会中で県と考えの違いがあった」「県の共通仕様書は本当に年度内に出るのか。出ないと動きが取れない」「端末価格、周辺機器、保守の条件など共同調達に際し意見の調整が難しい」「入札に手を挙げてくれる業者があるのか分からない」など共同調達プロセス全般に不安を感じる声が聞かれた。
今後は供給面でも課題が出てくる可能性がある。各市区町村が想定する調達予定時期ごとに台数を集計すると、2025年度に更新が集中することが分かった。調達台数と時期の双方に回答を得た1114市区町村の652万台を対象に分析したところ、更新の68%が2025年度に集中、2026年度は21%にとどまった。
これに伴い、円滑な端末供給と更新作業も課題となりそうだ。主に2つの理由がある。ひとつは2025年度には企業や官公庁・自治体で稼働する法人パソコンの主力OSである「Windows 10」の延長サポートが終了するため、法人市場でもパソコンの更新需要が集中すること。もうひとつは共同調達で案件が大型化・広域化することで前回の調達を支えた地域販社が入札に参加しにくいことだ。2024年8月に、GIGA第一期で端末を納品した事業者43社へ電話で聞き取りしたところ、その時点で今回の共同調達に応札すると明言したのは4社にとどまった。「供給体制が組めず応札できない」「与信なども考えると自社の規模では参加資格がない。一部の大手だけが参入できる」などの声も聞かれた。2025年度にパソコンの更新需要が集中することで、応札できる事業者でも相対的に収益を確保しやすい案件を優先する可能性も出ている。
端末更新にあたっては、改めて3OSを比較検討している市区町村が多い。都道府県主導で3OSを比較したという市区町村は約7割にのぼった。そうした中で、GIGA第二期では「OSを切り替える」が12%、「検討中もしくは未定」は24%となっている。
検討中まで含めれば2~3割程度の市区町村がOSを切り替える可能性がある。前回の1人1台端末整備でWindowsを採用していた393市区町村で「OSを切り替える」が21%と全体よりも9ポイント高かった。このほか、小学校と中学校で異なるOSを利用していたなど複数のOSを採用していた市区町村がOSを一本化する傾向も見られた。
GIGA第二期で採用したいOSを尋ねると、すでに採用OSを決めている市区町村が73%、「検討中・未定」「どれでもよい」など決めきれていない市区町村が27%となった。検討中・未定が3割近くとなった理由として、調査時点で都道府県からの共通仕様書が示されていないことを挙げる市区町村が多かった。採用OSを決めた市区町村の中ではChromeOSが37%と最も多く、次いでiPadOSが21%、Windowsが13%となった。このOS比率は児童生徒数(端末台数に相当)を基準とした比率でみても大きくは変わらなかった。
今回調査した時点において、要望するOSごとの調達予定台数を回答したのは796市区町村(全市区町村の46%)だった。この市区町村が調達を予定している端末台数の合計は約367万台で、この中でみるとChromeOSが211万台(構成比57%)、iPadOSが101万台(同28%)、Windowsが55万台(同15%)であった。GIGA第二期では予備機も含めると全体で1000万台強の端末が調達されると想定されるが、現段階で調達方針を決めている市区町村ではChromeOSの比率が高い状況にある。
端末価格の高騰を懸念する市区町村が、本体と周辺機器や端末管理ソフト(MDM)を補助金額である5.5万円以内に収めることを念頭に置くと、クラウドと処理を分散することで端末価格を比較的安価に抑えやすいChromebookを選択しやすいと考えられる。Windowsパソコンは個人市場での平均出荷単価が10万円を超え、AI(人工知能)活用への対応でさらに平均単価は上昇する見通し。
また切り替えの要因として、「前回導入のWindowsパソコンの起動に時間がかかる」「OS更新に時間や手間がかかる」など予算内で調達できる端末のハード性能や運用面について教育委員会から課題があげられており、解決策の丁寧な説明が必要だろう。iPadも最新機種、周辺機器ともに値上がり傾向にあり、MDMを含めた調達価格を複数年にわたり予算内に収めていけるのかが懸念される。円安の影響は3OS共通してあり、市区町村だけでなく共同調達を運営する都道府県も引き続き注視する必要がある。
市区町村の「事務手続きの軽減」「仕様書に沿った端末やソリューションの調達」などで、政府が狙った共同調達方式に一定の成果を出すことができそうだ。しかし都道府県ごとに調達の準備状況にばらつきが出ており、市区町村からは懸念の声も上がっている。調達の大型化は、価格低減の可能性がある一方で、納入者にも規模の論理が働きやすく、全国規模のIT販売店や通信事業者など大手サプライヤーに絞られる可能性も高い。
前回調達で製品を納入した地場の販売店が実質的に市場に参入できなくなることで、納品場所(学校)や時期が分散するGIGAスクール市場では、地域によって導入支援や運用サポートが不足するなど「供給格差」が出る恐れもある。例えば、コンソーシアム方式での入札を認めたり、地域単位での入札など地域販売店も参入できたりするように実情に即した運用が必要だろう。
共同調達を主導する都道府県担当者にとっては初めての大規模調達であり経験不足も懸念される。政府には共同調達の現状把握と円滑化に引き続き支援が求められる。