NPO法人日本語検定委員会は「日本語の持つ美しさや言葉の力を見直そう」という趣旨で「日本語大賞」を設け、毎年1回、日本語をテーマにしたエッセイや作文を募集している。「第15回日本語大賞」は「推(お)しの言葉」をテーマに2023年6月1日から9月15日まで作品を募集したところ、小学生の部2009点、中学生の部711点、高校生の部2056点、一般の部347点の計5126点におよぶエッセイ・作文が寄せられた。第一次審査、第二次審査を経て、12名の審査委員による最終審査が行われ、2月27日に審査結果が発表された。
■小学生の部 文部科学大臣賞『やくせなかった言葉』
「小学生の部」の文部科学大臣賞はブリティッシュスクールジャカルタ(インドネシア)の髙橋英志郎さん(小3)『やくせなかった言葉』。海外で生活している高橋さんは夏休みに一時帰国した際にサッカーチームの合宿に参加した。その時、夕食の号令を英語で行うようにコーチから言われるが、あいさつは英語で言うことができたが、「いただきます」を英語でどう言うかが分からなかった。その後、翻訳アプリなどを使って調べるが、動物や植物の命をいただいていることに感謝の気持ちを込めて言う「いただきます」に代わる英語がないことに気づき、日本語には特別な言葉があることが分かったという。
■中学生の部 文部科学大臣賞『いみじ』
「中学生の部」の文部科学大臣賞は古川学園中学校(宮城県)の鎌田薫穂さん(中1)『いみじ』。鎌田さんは姉の古文単語帳を見ている時に「いみじ」という言葉に出会った。「いみじ」には①「たいそう・甚だしい」、②「すばらしい・うれしい」、③「ひどい・悲しい」の三つの意味があると分かったが、一つの言葉が両極端の意味を持ち合わせていることに興味を持った。うれしい事やかなしい事があり、そうしたどうしようもない思いを「いみじ」という言葉に込めたのではと想像した。それから日常においても「いみじ」という言葉を使うようになった鎌田さんだが、三つの意味を自然に使いこなせるようになるまで「いみじく」時間がかかりそうだという。
■高校生の部 文部科学大臣賞『かなしい音』
「高校生の部」の文部科学大臣賞は白百合学園高等学校(埼玉県)の須賀愛佳里さん(高2)『かなしい音』。雑踏を眺めるのが好きで、道行く人々の日常を想像するのが楽しいという須賀さんは、雑踏の中にはまだ出会えていない人や物事が散りばめられているという。しかし、雑踏の中には自分が誰の日常の一端にもなり得ない孤独感もある。そうした時、夏目漱石「吾輩は猫である」の「のんきと見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする。」という一節を思い出す。「かなしい」という言葉を広辞苑で引くと様々な意味が出てくるが、その一つ一つの意味を追うごとに「吾輩は猫である」の一節の奥深さが増していくように感じるという。どんな人の心の底にもどこか悲しい音が響いているが、この言葉はそうした人間の内面に広がる彩りの豊かさや奥深さ、美しさを存分に知らしめ、味わせてくれた。1人ひとりの奥深くに響く音は単に悲しいだけでなく、美しくも複雑で、そして素晴らしいものだと信じたいとする。
■一般の部 文部科学大臣賞『受け取ったメッセージ』
「一般の部」の文部科学大臣賞は山内千晶さん(福岡県)『受け取ったメッセージ』。白血病で入院していた山内さんは同じく血液がんで入院している患者と知り合いとなった。限られた身内しか入ることができない無菌棟に入院していたため、幼い娘に会うことができなかった2人だが、友人は娘の小学校の入学式に、山内さんは娘の小学校の卒業式に出たいと思い頑張っていた。その後、山内さんは退院するが、友人は白血病が再発して亡くなってしまう。彼女の実家を訪ねた山内さんは自分が送った「病は向き合うもの」を合言葉のように言っていたと彼女の妹から聞かされた。この「病は向き合うもの」という言葉は10年後、両胸に乳がんが見つかった時、山内さんに想いが込められたメッセージとして返ってきた。この言葉を「推しの言葉」として胸の奥にしまって生きていくという。
<小学生の部>
【文部科学大臣賞】
髙橋英志郎さん(小3・インドネシア)『やくせなかった言葉』
【優秀賞】
北脇仁菜さん(小4・アメリカ)『石をみがく』
白井汰さん(小6・神奈川県)『ぼくにとっての宝物』
立花珂偉さん(小6・千葉県)『ぼくにがんばる力をくれた言葉』
【佳作】
安達洸晴さん(埼玉県)『ゆう気の言葉』
白石結大さん(神奈川県)『ヒットが打ちたい』
野土谷光咲さん(千葉県)「困難は成長のチャンス」
三好陸翔さん(愛媛県)『どんなときも』
三輪凛杏奈さん(アメリカ)『お安いご用』
和田光輝さん(アメリカ)『死ぬか生きるか』
<中学生の部>
【文部科学大臣賞】
鎌田薫穂さん(中1・宮城県)『いみじ』
【優秀賞】
川口真結子さん(中3・東京都)『「繕う」ことの意義』
土屋大道さん(中1・東京都)『でたらめをやってごらん』
土屋千紘さん(中2・シンガポール)『一歩踏み出そう』
【佳作】
斉藤亮太さん(大阪府)『為せば成る』
墨矢茜さん(神奈川県)『好きも上手も』
西脇美海さん(東京都)『勇往邁進』
藤橋祭太郎さん(シンガポール)『父の名言』
藤村秀翠さん(佐賀県)『だいじょうぶだいじょうぶ』
<高校生の部>
【文部科学大臣賞】
須賀愛佳里さん(高2・埼玉県)『かなしい音』
【優秀賞】
伊藤舞美さん(高2・東京都)『昨日に笑われないように、明日もっと笑えるように』
砂取穂乃加さん(高2・東京都)『ひとつぶひとつぶに感謝』
関根彩莉さん(高2・東京都)『努力が人を裏切るなら、』
【佳作】
安藤優香さん(神奈川県)『自立を基軸に、粋に生きる』
ジョーブ莉紗さん(アメリカ)『誰かを褒める言葉』
竹内梨乃さん(茨城県)『「もののあはれ」と私の未来』
西澤充希さん(東京都)『わくわくする』
堀江遥翔さん(東京都)『美しい日本語』
<一般の部>
【文部科学大臣賞】
山内千晶さん(福岡県)『受け取ったメッセージ』
【優秀賞】
櫻井聖義さん(東京都)『母推す息子』
翠玉さん(福岡県)『推しの教え』
芝葵衣さん(愛媛県)『真っ暗闇の中で聞いた言葉』
美景さん(群馬県)『ばちがあたるよ』
【佳作】
五十嵐忠夫さん(岩手県)『発酵し続ける言葉』
静春樹さん(徳島県)『ことばの福袋』
棚橋すみえさん(高知県)『払いや』
松本清美さん(神奈川県)『言葉を生きる』
<審査委員長>
梶田叡一氏(聖ウルスラ学院理事長)
<審査委員>
東武雄氏(読売新聞東京本社教育ネットワーク事務局長)
梶原しげる氏(フリーアナウンサー・東京成徳大学経営学部客員教授)
蕪木豊氏(彩の国総合教育研究所評議員・元埼玉県教育局指導部長)
境克彦氏(株式会社時事通信社代表取締役社長)
佐々木文彦氏(明海大学大学院応用言語学研究科・明海大学外国語学部日本語学科 教授)
佐藤和彦氏(ハリウッド大学院大学教授・ハリウッド美容専門学校副校長)
城重幸氏(豊岡短期大学教授)
平林正男氏(東京都高等学校国語教育研究会会長・東京都立保谷高等学校校長)
山内純子氏(元全日本空輸株式会社取締役執行役員客室本部長)
吉元由美氏(作詞家・作家・淑徳大学人文学部客員教授・洗足学園音楽大学客員教授)
渡辺能理夫氏(東京書籍株式会社代表取締役社長)