高等教育において、STEM(理系)領域を専攻する女性はOECD加盟国の大半で少ない傾向にあるが、特に日本では2019年時点で自然科学・数学・統計学と工学・製造・建築分野の割合はそれぞれ27%と16%と、加盟国の中で最も低い状況にある。
こうした状況を受け、公財・山田進太郎D&I財団は今年6月、大学1・2年生の女子520人(文系278人/理系242人)を対象に「女子学生の理系進学における障壁と要因に関するアンケート調査」を実施(調査協力:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー)、このほどその調査結果を公表した。
「理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合」「得意な理系科目がある学生の割合」を、理系志望、理系グレーゾーン、文系グレーゾーン、文系志望の4つのセグメントに分けて分析したところ、理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合は理系志望(93%)、理系グレーゾーン(75%)、文系グレーゾーン(31%)、文系志望 (19%)の順に低下する傾向にあった。得意な理系科目がある学生の割合は、理系志望(91%)、理系グレーゾーン(79%)、文系グレーゾーン(60%)、文系志望 (49%)の順に低下する。
文系進学者については、理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合が理系進学者と比較して、3分の1以下に落ち込む傾向にあった。また、文系進学者における「得意な理系科目がある」割合については、理系進学者と比較して3分の2の落ち込みとなった。
このことから、「得意な理系科目がある」ことも重要だが、さらに「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかが女子学生の文理選択に大きく影響する要因であることがわかる。
(※)調査では、文理選択の意思決定状況をもとに、理系進学者を「理系志望者」と「理系グレーゾーン」、文系進学者を「文系志望者」と「文系グレーゾーン」にそれぞれ分類して分析している。
各分類の定義は以下のとおり。
◎理系進学者=理系学部に進学した人全員
◎文系進学者=文系学部に進学した人全員
「学校の女子理系進学割合」「両親の学歴」などの選択肢を比較し、これらの要因と「理系進学・就職にメリットを感じること」との関連性を検証した。これらの要因は、「理系進学・就職にメリットを感じること」と一部相関性は見られたが、女子学生の文理選択に与える影響は限定的だった。
理系進学者、文系進学者、それぞれに対して「身近な親族の職業」「中高時代の理系体験の有無」という2つの理系進学に影響を及ぼす可能性がある要因と「理系進学・就職にメリットを感じる」を掛け合わせて分析したところ、文系進学者において「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合は、「母親が理系職業従事者」である場合は、そうでない場合(身近な親族に理系職業従事者がいなかった場合)と比較すると3分の2ほどに減少する。
このことから、進学ないしは文理選択する前に女性が理系職業で働くことの難しさを身近で感じることが、「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかにネガティブな影響を及ぼすといった仮説が成り立ち、周囲に保護者を含む理系職業の女性ロールモデルが存在するだけでは十分ではないことが示唆された。
一方で、理系進学者においては、「父親が理系職業従事者」である場合とそうでない場合(身近な親族に理系従事者がいなかった場合)と比較しては7%、「母親が理系職業従事者」である場合とそうでない場合は6%、「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合が増加した。
また、文系進学者においては中高時代の「理系体験」があることによって、「理系進学・就職にメリットを感じる」学生がそうでない学生と比較して1.3倍増加した。
これらの結果から、女子学生の文理選択において、「理系進学・就職のメリットを感じる」要因として、中高時代の「理系体験」があることが判明した。また、理系進学者の中では、身近な親族が理系職業に従事している場合、従事していない場合と比べて、メリットを感じる傾向がやや高まるが、文系進学者においては、特に母親が理系職業に従事している場合、ネガティブな影響を受ける傾向がやや高まることがわかった。
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