ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(IBS研究所)では、グローバル化社会における幼児期からの英語教育の有効性や重要性に関する情報を定期的に発信している。このほど、同研究所のポール・ジェイコブズ主任研究員が、イリノイ大学のランドール・サドラー氏とImmerse社のトリシア・スラッシャー氏へ行ったインタビュー記事を公開した。
【インタビュー記事の概要】
◎キーワード
スペインの小学6年生のクラスで、10週間にわたり、VRを活用した英語のレッスンが行われた。子どもたちは、アートギャラリーや家、ガレージ、魔法の世界のような大広間など、さまざまなVR空間で英語を学ぶ。サドラー教授らは、子どもたちへのアンケート調査、レッスン中の発話の分析を行い、通常の教室環境で授業を受ける場合と比較した。
◎研究からわかったこと
VRレッスンのほうがたくさんの単語を覚えたように感じている子どもが多くいた。教室レッスンよりもVRレッスンのほうがより高いレベルのパフォーマンスを発揮していた。通常の授業では静かなのにVRレッスンでは活発になる子どもがいた。
なぜ、子どもたちはVRレッスンのほうがうまく学べたのか。サドラー教授らによると、子どもたちがあらゆることばを文脈(ことばが実際に使われる目的・状況・場面など)の中で学べたこと、また、レッスンの楽しさによって不安が軽減され「もっと英語を話そう」という気持ちになったことが要因として考えられる。
なお、スラッシャー氏が大学生を対象に行った研究では、教室よりもVR空間で外国語のレッスンを受けたほうが不安をあまり感じない、ということが唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)や心拍数の測定でも明らかになった。
アメリカの多くの大学では、学内にVRラボがあり、VR活用の普及が進み、これらの技術を使いたいと考える第二言語習得研究者や教師の間で、大きな関心が持たれている。一方、K-12(幼稚園~高校)では、一部が導入し始めたばかりで、VR機器が高価なため、まだ一般的ではない。
そこで、教育資源に乏しい高校を対象に、500台のVR用ヘッドセットをMeta社(旧Facebook)から研究助成を受けて提供する、Immerse社(担当:スラッシャー氏)とサドラー教授、そして2名の研究パートナーによるパイロット研究が2023年春にスタートした。プロジェクトの目的は、「教師それぞれが置かれた状況で、VRを外国語学習にどう活用するのが最適か」を検討すること。先生方と協力しながら「ワークショップによるトレーニングの実施」や、「VRを活用したレッスンプランの開発サポート」を行う。研究に参加する学校は、全米各地(カリフォルニア州、テキサス州、イリノイ州)の高校。
現時点では、高没入型のVRヘッドセットは、学校の先生方が気軽に利用できるものとして認識されていません。しかし、このプロジェクトによって、その認識が変わるかもしれません。日本政府は、授業におけるテクノロジー活用を推進し、言語を文脈と結びつけて学べるVRが効果的な役割を果たすことを期待しています。VR学習には、「VR空間でのリアルな場面・状況で英語(または他教科)を学ぶ」→「本物のやり取りが促進される」→「話す不安を軽減する」という可能性があり、通常の授業で英語を使うことに自信がない多くの日本人生徒にとって、ぴったりの学習法に思えます。サドラー教授らからは、VRが得意なこと・苦手なこと、VRに適した指導スタイルについても伺うことができ、適切に活用すれば多くの人に役立つものになり得ることがわかりました。
インタビューの詳しい内容はIBS研究所の下記ページで公開している。
▶︎前編
▶︎後編