教育データ活用の取り組みが進む東京都渋谷区では、2022年度から区立小・中学校において、複数のデータを集約・可視化し、児童生徒の興味関心・悩みを丁寧に見取り、より深い子供理解に基づいた教育支援・指導を可能にする教育ダッシュボードを導入している。そのPoC(概念実証)、全体構想、構築、内製化等を支援したジールが2月6日、実践事例を公開した。
渋谷区では文部科学省が「GIGAスクール構想」を打ち出す2年前の2017年9月から、全国の自治体に先駆け、渋谷区ICT教育システム「渋谷区モデル」として児童生徒一人1台のタブレット端末環境の導入を推進。2020年にはICT教育基盤を刷新し、ICT機器を活用した「すべての子供たちの可能性を引き出す学び」を根付かせていた。
そのような中、「子供たち一人ひとりのウェルビーイング(幸せ・心の豊かさ)を向上させるために、どうデータ活用すべきか」という議論が持ち上がり、教育現場におけるICTの実践で培った知見やノウハウをベースに、次のステップとして教育データ活用の検討に入った。
一方で、教育データの活用については日本に先行事例がほとんどなく、海外事例に精通しているマイクロソフトのファシリテーションのもと、教育政策課、教育委員会の行政系・教育系職員、区長部局のICT部門が参加し、教育データ活用に向けてワークショップを開催。ワークショップにて、その後の羅針盤ともなる考え方を整理でき、目的やビジョンを明確にできた渋谷区では、児童生徒の生活記録(ライフログ)を中心としたダッシュボード開発に着手することになった。
2021年度に入り、教員が子供たちとの1on1(1対1で行う対話)における時間の創出と密度向上を図るために必要なデータについて、データの洗い出し、発生頻度、優先順位付け、取得難易度などの検討を進めつつ、2021年9月から2カ月、ワークショップに参加したメンバーを中心にPoC(概念実証)を実施し、その技術支援をジールが担当した。
渋谷区は、PoCの結果を踏まえ、2021年10月から構築を開始。PoCから引き続いてクラウドの部分はジールが担当、オンプレミスのハードウェアやネットワークなどはNTT東日本が担当して両社が連携しながら構築を進めた。
2022年度から渋谷区立小学校・中学校全26校への展開を開始し、学校や保護者への説明、学校生活アンケートに対する校長会での意見の反映などを行い、同年6月に学校生活アンケートを実施、同年7月からの試行実施を経て9月から本格運用に至った。
教員がデータを活用し、さまざまな視点から気づきを得られることで、渋谷区が目指していた児童生徒と1on1で向き合う時間の密度向上と早期対応・早期支援が図れたという。
教育現場からは「声かけや学年での共通理解を図るものとして、生徒指導面で参考にしている」「リスクにつながりやすいワード検索などの情報を保護者と共有し、家庭での見守りをお願いした」などの声があり、教育ダッシュボードの利用シーンは広がりをみせているという。