全国から優れた教育実践を募集し、広く普及することを目的とした「第38回 東書教育賞」(主催:東京書籍、中央教育研究所)の入賞者が決定。2022年度は「未来を担う子どもと共に歩む確かな教育実践」のテーマに対し、全国の小中学校の教員と教育関係者から130編もの応募が寄せられた。受賞論文は論文集としてまとめられ、後日全国の学校や教育機関などに配布される。なお、贈呈式は審査員の講評をまとめた映像を受賞者に送付する形で行われた。
■全体の2割がICTを有効に活用する論文に
審査の結果、小学校部門は最優秀賞1編・優秀賞3編・奨励賞4編、中学校部門は最優秀賞1編・優秀賞2編・奨励賞2編が選ばれた。今回の特徴として、ICTを活用した論文の応募数が全体の2割を超えたことが挙げられる。内容も「個別最適な学び」の実現に向けたプログラミングの活用、経験が浅い教員が増える中でのオンラインの活用など、教育課題への対応にICTを有効に活用しようとする意識の高まりが見られた。
■誰でも楽しめるパラスポーツを取り入れた体育の授業を実施
小学校部門の最優秀賞は岡山市立芳明小学校 中安翼教諭の「性別・技能・言語の壁を越えろ!パラスポーツを活用した体育授業」。勤務校の5年生児童に対して、2022年9月末から10月初旬に行った体育授業の実践研究となる。
同校の5年生児童は運動技能差が大きく、運動が苦手な児童ほど体育に前向きに取り組みにくい傾向が強いとともに、男女一緒に運動することに抵抗感がある雰囲気も見られる。また、外国籍の児童が3名在籍しており、日本語がほとんどできない児童もいた。そこで中安教諭は、性別や技能、国籍に関わらず、だれとでも運動を楽しめることをねらいとした体育実践として「ボッチャ」「ゴールボール」といったパラスポーツを活用した授業を行った。
パラスポーツを小学校体育の学習内容に合うよう工夫して取り入れたことで、これまで以上に児童が生き生きと授業に参加する姿が見られるようになった。また、多様な友達同士の積極的な交流が多く見られるという成果もあった。
■2年間をかけて部活動を組織運営へと改革
中学校部門の最優秀賞は岡山市立福浜中学校 藤枝茂雄校長の「部活動の組織と運営の改善に向けた実践的考察」。教員の働き方改革のためには、「仕事量の多さ」へのアプローチよりも、教員の職場風土を生み出している社会文化的な要因へのアプローチが必要となる。特に部活動は、それぞれの部活動運営の場において独特のルールや思考様式が成立し、それが組織的な危機管理の徹底などの妨げとなっている。
同研究は、上記の課題意識に立ち、運営上のクレームも含めて課題の多かった本校の部活動を個業型の運営から保護者代表の参画による組織運営へと2年間をかけて改革した過程を考察したものとなる。この組織改革により、個業型の運営から派生していた外部指導者の任免手続きの不明確さや部活動同時集金の会計監査の不統一から生じる問題などのリスクが大きく軽減されるとともに、顧問の総時間枠内裁量担当制の実施、地域チームへの休日部活動指導の一部委託など、教員のワーク・ライフ・バランス推進のための新たな取組も始められるなど大きな成果をあげている。
<小学校部門>
【最優秀賞】
岡山市立芳明小学校(岡山県) 中安翼教諭
(体育)『性別・技能・言語の壁を越えろ!パラスポーツを活用した体育授業』
【優秀賞】
竹原市立忠海学園(広島県) 有松浩司教諭
(生活)『困難に立ち向い、乗り越えようとする力の育成』
和歌山大学教育学部附属小学校(和歌山県) 北川真里菜教諭
(音楽)『ICT活用による小学校音楽づくり授業における個別最適な学び』
熊本市立植木小学校(熊本県) 清田裕文教諭
(国語)『言葉を大切にし、自他を大切にする学校づくり』
【奨励賞】
有田川町立鳥屋城小学校(和歌山県) 坂本利文校長
(全)『オンライン有効活用で小規模校の課題克服と教職員のレベルアップ』
牛久市立中根小学校(茨城県) 佐野一葉教諭
(外国語)『外国語科における話す意欲を高める方略的能力の育成』
北海道室蘭聾学校 高津直人教諭
(特別支援)『聾学校における言葉の育みを目指した掲示活動の取り組み』
高松市立鶴尾小学校(香川県) 田中義人校長
(学校経営)『閉校が議論された小学校の挑戦「地域と協働する 攻める教育」』
<中学校部門>
【最優秀賞】
岡山市立福浜中学校(岡山県) 藤枝茂雄校長
(学校経営)『部活動の組織と運営の改善に向けた実践的考察』
【優秀賞】
一関市立花泉中学校(岩手県) 奥田昌夫校長
(全)『GIGAスクール時代の教材開発』
上越教育大学附属中学校(新潟県) 仙田健一教諭
(社会)『身近な地域の魅力に気付き、誇りをもつ生徒を育成する社会科授業』
【奨励賞】
岡山大学教育学部附属中学校(岡山県) 川上祥子教諭
(家庭)『持続可能な社会の構築を目指す「サルベージ・パーティ®」の実践』
豊橋市立豊城中学校(愛知県) 城所美和教諭
(特別活動)『多様な性~あなたのままで大丈夫~』
<審査委員>50音順
東京工業大学名誉教授 赤堀侃司氏
東京大学名誉教授 市川伸一氏
上智大学名誉教授 武内清氏
前東京学芸大学教職大学院特命教授・元全国連合小学校長会会長 露木昌仙氏
立教大学名誉教授 鳥飼玖美子氏
信州大学名誉教授 東原義訓氏
東京学芸大学名誉教授 藤井斉亮氏
前十文字学園女子大学教授・元全日本中学校長会会長 松岡敬明氏