教員の業務負担の軽減などに向け、学校給食費の公会計化等を実施している自治体は全体の約3割にのぼる。また、公会計化等を準備・検討している自治体と合わせると約6割となることが、文部科学省が学校給食を実施している1794自治体を対象に実施した調査から明らかとなった。
■学校給食費を地方公共団体の会計に組み入れることで教員の負担を軽減
文部科学省は教員の業務負担軽減などの観点から、学校給食費については地方公共団体の会計に組み入れる「公会計制度」を採用するよう推進している。また、学校給食費の徴収・管理を学校ではなく地方公共団体が自らの業務として行うよう求めている。
■約6割の自治体が学校給食費の公会計化等を実施または準備・検討
学校給食費の公会計化等を実施している自治体は498件。前回調査の26.0%から5.3ポイント増加して31.3%となっている。また、公会計化等を実施している自治体と準備・検討している自治体の合計は991件。前回調査の57.1%から5.1ポイント増加し、62.2%となっている。なお、「公会計化等」とは①公会計制度を導入、②徴収・管理を学校ではなく地方公共団体自らの業務として実施の双方を満たしたものとなる。
■導入・改修にかかる経費が公会計化等の実施の支障に
学校給食費の公会計化等の実施を予定していないと回答した教育委員会に支障となっている事由を聞いたところ、最も多かったのが「情報管理のための業務システムの導入・改修にかかる経費について」の332件、次いで「人員の確保について」の321件、「情報管理のための業務システムの運用にかかる経費について」の302件、「徴収や未納など対応における徴税部門等との連携について」の199件と続く。
■群馬県などでは学校給食費の公会計化が進む
学校給食費の公会計化等の実施を予定していない教育委員会は全部で602(37.8%)あるが、都道府県別の割合でみると、佐賀県86.7%、青森県75.8%、山形県64.7%で公会計化等の実施が進んでいない。一方、群馬県は23の教育委員会で公会計化等を導入済または導入の準備・検討を進めており予定をしていない教育委員会は4.2%となっている。
■公会計化等を実現した自治体の事例などを地方公共団体へ通知
文部科学省では公会計化等を実現している自治体の事例をまとめ「学校給食費徴収・管理に関するガイドライン」(2020年11月4日一部改正)、「学校給食費の公会計等に関するQ&A」(2022年12月)とともに地方公共団体へ通知。引き続き学校給食費の公会計化等の促進を図っていく。
<学校給食費の公会計化等に関する先行事例>
【岩手県花巻市】
教職員の多忙解消及び保護者の利便性の向上、学校給食費に係る滞納解消や透明性の向上を目的に公会計化等の検討を開始。私会計では金融機関が限定されていたが、市のシステムに学校給食費管理システムを導入したことにより、地域の金融機関のほとんどが使えるようになり保護者の利便性が向上。また、市の監査の対象となったことで透明性も向上した。私会計の債権承継や条例・規則の整備にあたっては教育委員会だけで悩まず、法務担当と連携することが大切だとする。
【東京都福生市】
学校給食費に係る管理方法の適正化を目的に市長のリーダーシップにより公会計化等の検討を開始。比較的短期間で公会計化を実現。従来から給食費は教育委員会が徴収していたことからシステム導入は行わず、比較的安価で導入を実現。食材などの契約が市の契約となったことで給食会計の透明性が向上し、内部統制の強化を図ることにつながった。私会計時の繰越金を財源に学校給食運営基金を設立。物価高騰を含めて収支均衡のための調整を行い、食材購入にかかる費用は保護者負担の原則を維持している。予算措置により給食費収入の影響を受けず、安定して食材を調達できるようになった。
【岐阜県関市】
2020年度の学校給食センターの改築を機に、給食費の教職員にかかる徴収事務の軽減を図ることを目的に公会計化等の検討を開始。少人数で短期間かつ安価で公会計を導入したことで教職員の負担軽減を実現した。徴収方法は口座振替、納付書、児童手当からの天引きとし、就学支援の対象者分は担当課より徴収する。市が導入している共通のシステムを利用することで滞納者の情報共有が図れるようになった。
【岐阜県安八町】
文部科学省からの通知や他市町村の導入状況を鑑みて教職員の負担軽減を図ることなどを目的に公会計化等の検討を開始。少人数で短期間かつ安価で公会計を導入した結果、会計の透明性の向上が図られ、教職員の負担軽減を実現した。また、公会計の導入により滞納額が減少した。私会計時は学校給食センターの中で通帳の出し入れが行われていたが、公会計化により会計の透明性の向上が図られた。担当者によると、導入時のシステムへ口座情報の入力が大変だったため、予算に余裕があるならば臨時職員を採用するなど人員を増やした方がスムーズにできるという。
【滋賀県野洲市】
教職員の負担軽減や学校給食費の会計業務の透明性向上を図るため、他市町村と共同調達している基幹系住民情報システムを活用する方向で公会計化等の検討を開始。他市町村と共同調達している住民情報システムに、学校給食費の徴収管理等のシステムを追加導入することで教職員の負担軽減、滞納対策を実現した。公会計化等により学校で現金の取り扱いがなくなり、会計業務の透明性向上につながった。また、システム上で一括処理しているため事務作業の軽減につながった。
<調査内容>
調査基準日:2021年5月1日現在
調査対象:学校給食を実施している小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校(前期課程)、特別支援学校、夜間定時制高等学校を設置管理している教育委員会など計1794自治体(事務組合を含む)
調査事項:公会計化等の実施状況、支障となっている事由