放課後NPOアフタースクールは第2回オンライン放課後勉強会「子どもをまんなかに!私たちで描くこれからの放課後~子どもの発達や特性に応じた関わり方・場づくりを考える~」を11月12日(土)に開催。東京都立矢口特別支援学校主任教諭の川上康則氏による講演のほか、公設民営アフタースクールの実践が報告された。
<講演:東京都立矢口特別支援学校主任教諭 川上康則氏>
■思うとおりに行動してくれない子供と接するには
子供たちと接する中で、泣き出したり、暴れたり、言うことを聞かなかったりすると、どんなに温厚な人でも穏やかではいられなくなる。川上氏によると、子供にこうしてほしいとする理想的な姿がある一方、そのラインに達していないと心がざわつき、その状況を早く解決したいあまり、気持ちの「余白」が無くなってしまうという。
■子供の行動を二項対立で悩まずに成長を見守ることが大事
そこで、子供を「許す」か「許さないか」、「認める」か「認めないか」の二項対立の図式で悩むのではなく、2つの結果の間に1から99まで選択肢を設けて折り合いをつけることが大事だとする。現状は95の段階だとしても、それに満足し、いつか0に到達するまで子供の成長する姿を見守ることが求められる。
■「今はこういうもの」と割り切ることで気持ちに「余白」が生まれる
子供との関わり方には4つの関わり方のポイントがあるという。1つめは「今はこういうもの」と割り切ること。「今のうちに何とかしておかないと」という使命感や、「周りから子供を何とかしろと思われる」という焦りがあると、子供に無理強いをして深刻な状況に陥ってしまう。そこで「そういうものだ」と割り切ることで気持ちに余白が生まれる。2つめのポイントは「子供と周波数が合うタイミングがくるのを、楽しみにしながら待つ」こと。急いで結果が出るのを求めずに、答えの出ない状況でも持ちこたえる力が必要。
■自分は他者のためになっていると子供が感じるために
3つめのポイントは「うまくいった際の、ちょっとした手掛かりを分析」すること。成功した時の物的環境や人的環境などを分析することが成功を増やすことにつながる。4つめのポイントは「こだわりを集団や施設全体にとって必要とされる行動にする」こと。子供のこだわりを「他者のためになる活動」と位置付けることで、子供が「ありがとう」と言われる場面を増やし、自分は必要とされていると感じる自己有用感を高めていけば良い。
■常に笑顔の大人がいつもそこにいることが子供へのごほうび
二項対立の図式は「子供はほめて伸ばすべき」「叱れないのは甘すぎる」など子供を取り巻く大人同士でも生まれることがある。これは、どちらかが正しいではなく「自分は間違えていない」という思い込みが一番危険と川上氏は指摘する。どちらかに偏ることなく、笑顔をキープできる大人として、子供に接することが最大の目標となる。
■追いつめられて「ちゃんと」の呪いに捉われないように
感情をコントロールできずに追いつめられていく理由として、①時間がない、②やり方がわからない、③解決能力が足りない、④助けてくれる人がいない、⑤他者の視線を感じるの5つが挙げられる。追いつめられると、必要以上に「ちゃんと」を子供に求めるようになるが「ちゃんと」の呪いに捉われていないかと川上氏は問いかける。
■「オパッキャマラド」で一つ一つ乗り超えていく関わりを
関りの基本は「オパッキャマラド」とする川上氏。童謡「クラリネットをこわしちゃった」に出てくる「オパッキャマラド」は、出したい音階の音が出ない子供に向かって「練習して一つ一つ音を出せるようになっていこう」と励ます父親の台詞。このように「一つ一つ乗り越えていこう」と歩調を合わせて前に進むような関わりを子供たちは求めている。
■子供の伝えたいことをキャッチしてラポール(信頼関係)を築く
子供はルールよりもラポール(信頼関係)に従う傾向にあるとする。言うことを聞いてほしい時、子供を変えようとするのではなく、「この人の話は聞く価値がある」と思えるようなラポール(信頼関係)づくりが欠かせない。子供は「自分が認めた大人」や「自分のことを分かってくれる大人」の言うことは聞くようになる。「自分のことをわかってくれる大人」になるためには、子供の伝えたいことをキャッチして、何を伝えたいのかを言語化してあげることが求められる。
【講演者プロフィール】
川上康則氏
東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。日本授業UD学会理事。NHK「ストレッチマンV」「ストレッチマン・ゴールド」番組委員。学研教育みらい 令和2年度版「みんなの体育」編集委員。 特別支援学校にて教育実践を積むとともに長年、地域の相談支援に携わってきた。
<実践共有:公設民営アフタースクールが日々の運営で大切にしていること>
■子供の目的別に教室を区分け
東京都のある公立小学校内のアフタースクールは、共働き家庭などの児童を対象とした「放課後児童クラブ(学童)」と、すべての子供を対象とした「放課後子ども教室」の一体型施設で1年生から6年生までを受け入れている。2022年度は子供たちが過ごす環境の整備を実施。これまでは1つの教室に工作を楽しむ児童や読書を楽しむ児童が混在していたが、落ちついて本などが読める「静的なリラックススペース」、工作・手芸やプログラミングなどを行う「創作・つくるための場」、思い切り体を動かすことができる「アクティブな活動の場」など教室内が目的別に分けられた。
■臨床心理士が月2回程度巡回を実施
アフタースクールには加配対象の児童も数名いるが、自治体の巡回支援員は年1回程度の訪問のため、子供に寄り添った継続的な支援につながりにくい。そこで、つながりのある臨床心理士に巡回協力を依頼し、月2回程度の巡回とミーティングが行われるようになった。2回目の巡回では保護者との面談も状況に応じてセッティングされる。
■様々な子供に合わせた関係作りを行う
多様な子供がいる放課後事業だが、日々の運営において大事にしていることは「スタッフ同士の対応の目線合わせ・すり合わせ」「特性や発達に配慮した1対1の関わり、関係づくり」「個と集団での関わりの工夫」の3つ。アフタースクールでは特性や発達に配慮した子供と関わりる中で、スタッフ全員で子供を観察し、アイデアを出し合い、その子供に合ったやり方を探っていく。
【放課後NPOアフタースクールとは】
“放課後はゴールデンタイム!”というビジョンを掲げ、子供たちに居場所と出番のある放課後の時間を実現するため活動を続けている。主な事業の柱は、①放課後の小学校に子供の居場所を運営する「アフタースクール事業」、②企業と連携した「共同プロジェクト事業」、③全国の放課後の活動を支援する事業の3つ。放課後NPOアフタースクールでは「自由」「多様」「挑戦」「社会」「夢中」「仲間」の6つの放課後の価値に重きを置いて活動を展開している。