獨協埼玉中学高等学校は中学校の音楽科においてオーケストラのVR(仮想現実)映像を活用した授業を11月2日(水)に行った。授業ではスメタナ作曲による「ブルタバ(モルダウ)」をオーケストラが演奏する様子をVR映像により鑑賞した。授業実践者は音楽科の相原結教諭。
■大阪教育大学シンフォニーオーケストラの演奏を鑑賞
今回の音楽の授業は中学3年生を対象に実施。VR映像は大阪教育大学シンフォニーオーケストラによる演奏を、VR映像の製作などを手がけるアルファコードの協力により収録。完成した映像はVR映像配信プラットフォーム「Blinky」に投稿され、アドレスにアクセスして生徒は映像を視聴した。
■VR専用ゴーグル、簡易ゴーグル、Chromebookの3種類で視聴
授業では4人ずつグループとなり、複数のVRカメラで撮影した映像の視点を切り替えながらオーケストラの演奏を鑑賞。制作した動画を本体に保存してオフラインで視聴できるVR専用ゴーグルのほか、1人1台端末のChromebookや生徒個人のスマートフォンに取り付ける簡易ゴーグルなど様々な視聴方法が試みられた。
■VR専用ゴーグルで臨場感のある映像を体験
VR専用ゴーグルは360度の視点からの臨場感のある鑑賞が可能。3年生がVRゴーグルを使用するのは今回の授業が初めてとなる。Chromebookでの鑑賞はVRゴーグルと比べて臨場感は劣るが、複数の生徒で同じ画面を見られるため、映像を見た感想を生徒同士で共有することができる。
■どのような川の流れを楽器で表現したかったのか
「ブルタバ(モルダウ)」はスメタナの故郷であるチェコを流れる大きな川の流れを表現した曲。ブルタバはチェコ語、モルダウはドイツ語で川の名前を意味する。今回の授業では作曲者が楽器で表現したかった川の流れなどを気づいてもらうことがねらいとなる。
■見たい方向からオーケストラの演奏を鑑賞
DVDを利用した音楽鑑賞では曲の「良さ」や「重要」とされている部分が編集者の意図により収録されている。今回のVR映像は5か所に設置したカメラからオーケストラの演奏を収録しており、生徒は見たい位置や方向から映像を切り替えて視聴できるため、自分が気になった楽器や指揮者に焦点を当てて鑑賞することが可能。
■水の流れを楽器を使って表現
「ブルタバ(モルダウ)」のように作曲者の伝えたいことが明確な音楽は標題音楽と呼ばれ、モチーフとなる楽器とその他の楽器を組み合わせることで伝えたいことを表現している。生徒はスメタナが水の流れをどのように楽器を使って表現しているかなど映像を鑑賞しながら考えた。
■気になる楽器に焦点を当てて水の表現の仕方を鑑賞
最初に流れる「ブルタバの2つの源流」ではフルートで第一の源流を表現しているが、それ以外にバイオリンでも水の跳ねるような動きを表している。それを確かめるためVRゴーグルを使って、水を表現している楽器に焦点を当てて演奏者の様子を鑑賞した。また、次回以降の授業ではチェコがオーストリアの支配下にあった時代背景や作曲者のスメタナが置かれた環境などを学び、「ブルタバ(モルダウ)」を通して国民に何を伝えたかったのかを読み取っていく。
【第48回全日本教育工学研究協議会全国大会で中1の実践を発表】
今回の授業に先駆けて、エドワード・エルガー作曲による行進曲「威風堂々」第1番のオーケストラのVR映像を制作し、2022年5月に中学1年生の授業で活用。その時の様子が10月28日・29日に愛知県春日井市で開催された第48回全日本教育工学研究協議会全国大会で発表された。
「威風堂々」の観賞ではVR映像を鑑賞することで生徒一人ひとりが曲の良さや面白さを見つけ出すことがねらい。はじめに音だけで観賞し、気になったことや疑問点を書き出した後、VR映像を鑑賞して自分が書き出した内容を確認した。
音だけで観賞した際に「キラキラした音は何だろう」「演奏をしていない時、奏者は何をしているのか」などの疑問が生まれたが、VR動画で確認することで「キラキラした音の正体は鉄琴」「演奏をしていない時、打楽器の奏者は叩く面を手で押さえて音が出ないようにしていた」など新たな発見につながった。
また、中1の授業後に実施したアンケートでは「オーケストラの曲の良さや面白さを他の人に伝えられる」と回答した生徒が授業前と比べて明らかに増えたという。