近年の激甚化、頻発化する豪雨等により、学校施設においても大きな被害が発生している。このため、文部科学省「学校施設等の防災・減災対策の推進に関する調査研究協力者会議」(主査:中埜良昭 東京大学生産技術研究所教授)では、今後の学校施設の水害対策の基本的な考え方について検討を実施。6月14日(火)、これまでの検討内容を中間報告として取りまとめて公表した。
■学校に求められる水害への取組
2021年度の流域治水関連法の制定等により、学校施設においても水害に対する被害低減等の取組を進めることが必要となっている。一方、「浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地する学校に関する調査」(2021年6月)では、浸水想定区域に立地し、要配慮者利用施設として位置づけられた公立学校のうち、学校施設内への浸水対策等を実施している学校が、約15%であることなどが明らかになった。
■学校施設の水害対策の基本的な視点や水害対策の検討の枠組みなどを提言
このことを受け、文部科学省では有識者会議を設置し、学校施設の水害対策の基本的な考え方について取りまとめを行った。中間報告では「学校施設の水害対策の基本的な視点」、「学校施設の水害対策の検討の枠組み」等について提言している。
主なポイントは以下のとおり。
①学校施設の水害対策の基本的な視点
・幼児児童生徒等の安全の確保や学校教育活動の早期再開などの学校教育上、果たすべき役割を第一に置きつつ、災害時には避難所となるなどの地域防災上の役割にも留意して水害対策を検討すること。
・浸水対策を検討する際には、想定最大規模の浸水想定だけを対象とするのではなく、より発生確率の高い浸水想定にも着目した上で、対策の対象とする浸水深等を多段階に設定し、事前避難等のソフト面と施設整備によるハード面の両面から水害対策を検討・実施すること。
・浸水想定などのハザード情報の詳細な把握等については、河川管理者等が所有するデータや専門的な知見が求められ、教育委員会等の学校設置者のみの対応では困難な状況等が想定されることから、教育委員会と治水担当部局、防災担当部局等の関係部局との連携体制を構築すること。
②学校施設の水害対策の検討の枠組み
・治水担当部局等の協力を得て、域内のハザード情報(想定浸水深、発生確率等)を把握すること。その際、1000年に1回程度の割合で発生する想定最大規模の降雨による浸水想定だけでなく、より発生確率の高い浸水想定(10年に1回、30年に1回、50年に1回など)などについても情報を整理すること。
・学校施設の脆弱性を踏まえ、想定される浸水の頻度・浸水深等から、域内の学校施設の水害対策の方向性・優先度を検討すること。
※学校施設の脆弱性の確認の観点
〇人的被害(要配慮者の有無、避難経路・スペースの確保状況等)
〇社会的損失(教育活動の長期中断、避難所機能の喪失等)
〇経済的損失(復旧に掛かる負担等)
・対策目標(緊急時の幼児児童生徒等の安全確保、学校教育活動の早期再開など)ごとに多段階に対象とする浸水深等を設定し、個々の学校施設の対策内容を検討すること。
(対策の考え方の一例)
※学校・地域の実情に応じ、どの程度の浸水に対してどのように対応するかを検討
○想定最大規模(1000年に1回程度)の降雨に対しては緊急時に児童生徒等の安全を確保するための対策(上階待機など緊急的な安全確保の場所の確保等)
○計画規模(100年に1回程度)の降雨に対しては学校教育の早期再開に資する対策(受変電設備の嵩上げ等)
○より頻度の高い(10年に1回程度)降雨に対しては施設の被害を防ぐ対策(止水板の設置等)
■中間報告を参考にしつつ学校施設の水害対策に取り組むよう通知
今後の対応として、各学校設置者においては中間報告を参考にしつつ、学校施設の水害対策に取り組むよう通知する。また、教育委員会と治水担当部局、防災部局等との連携体制の強化を要請する事務連絡を関係省庁と連携して発出する。
■最終報告として具体的な対策の手順等を示した手引きを策定
最終報告(2022年度末目途)では中間報告の内容を踏まえ、学校施設の水害対策を進める際の具体的な対策の手順等を示した手引きを策定する予定。また、引き続き、学校施設の水害対策に係る取組に対する財政支援を行っていく。
「水害リスクを踏まえた学校施設の水害対策の推進に向けて」中間報告を公表